『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』

高速道路を走る男を86分間にわたって映し出す、異色のワンシチュエーション映画。人生が壊れていく男の哀しみを描いた良作です。

以下、ネタバレあり。

※  ※  ※

概要は映画.comより。

「インセプション」「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のトム・ハーディ主演で、高速道路を走る主人公ただ1人が86分間にわたって映し出される異色のワンシチュエーションサスペンス。
プライベートでは妻と2人の子どもにも恵まれ、仕事でも建築現場監督として評価され、順風満帆な人生を送っているアイヴァン・ロック。大規模なプロジェクトの着工を翌日に控えた夜、高速道路に乗り、目的地へ向かおうとしていたアイヴァンに1本の電話がかかってきたことから、全てが狂い始めていく。

上記の通り、スクリーンには、高速を走る車中で主人公の男が電話をかけ続ける様子だけが映し出される、それだけの話なんですが、面白かったです。

出張先でアシスタントを務めた女性との一夜の過ち。それにより相手の女性が自分の子どもを妊娠してしまったことから、アイヴァンの人生が狂い始める。
彼女のことを全く愛していない(と自覚している)のに、彼女が生む自分の遺伝子を引き継いだ子どもに対する責任はとる、と、家族とサッカーを見る約束も、翌日の大規模なプロジェクトも投げ出し、高速に乗って彼女の元へと向かうアイヴァン。
車中での電話の相手は、妻(と息子たち)、出産間近の元アシスタント女性、部下、上司。
妻に過ちを告白し、女性には「愛はないけど責任はとる」と説明し、部下にはプロジェクトの下準備の指示をし、上司には言い訳を。
そしてもう一人、車中で彼が話しかけている相手がいます。姿の見えない「父親」です。

なぜ、家族も仕事も捨てるようなことまでして、愛してもいない女性(というより生まれてくる子ども)に会いに行くのか、その最大の理由が、この「父親」にあります。
父親への憎しみがこれまでのアイヴァンの人生を支えてきたといっても過言ではないくらい、彼の父親に対する憎しみはすさまじいものがありました。
息子たちとの会話を聞いてもわかるように、彼は自分の父親を反面教師に、いい父親になる努力はしてきたんですね。そして、これから生まれる子どもに対しても、父親として責任をとろうとしている。自分の父親のように「逃げたりはしない」と。
しかし、この決断は果たして、彼の周りの人々を幸せにできるのか。これまで築き上げてきた幸せを壊してまで守らなければならないものとは、一体何なのか。
一夜の過ちさえなければ、少なくとも劇中で描かれた問題は起きていなかったでしょうが、アイヴァンの父親に対する憎しみと意地は、いずれ何かしらの形で爆発する日が来ただろうと思いました。

この映画、原題は「Locke」(ロック)。アイヴァンの姓です。
父親が泥を塗った「家」を自分が立て直し、守ってきたと自負するアイヴァンですが、彼もまた、父親と同じ過ちを犯そうとしています。自分が受けてきた苦しみを息子たちも抱えてしまう未来が、彼には見えていません。自分の父親と正反対に生きようとするあまり、より大切なものを見失ってしまったんですね。

人生が壊れていく中年男の哀しみが、無機質な明かりが照らす夜の高速道路に流れていく。
舞台に高速道路を選んだ点が、素晴らしいと思います。


『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』
原題:Locke
2013年/イギリス・アメリカ/86分
監督・脚本:スティーヴン・ナイト
キャスト:トム・ハーディ、(以下声のみ)ルース・ウィルソン、オリヴィア・コールマン、トム・ホランド、ビル・ミルナー、アンドリュー・スコット、ベン・ダニエルズ 他
(7月4日、UCキャナルにて鑑賞)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA