アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015(1)~インドネシア編

9月18日から25日まで、ユナイテッドシネマ・キャナルシティ13を中心に開催されていたアジアフォーカス・福岡国際映画祭。今年も参加してきました!公式サイト
今年は「マジック☆インドネシア」と題してインドネシア映画特集があり、個人的にお気に入りのリリ・リザ監督の過去の作品なども鑑賞することができました。
また、公式招待作品すべてに足を運ぶことができました!がんばりました!(シルバーウィーク18日から23日の間、毎日キャナルシティまで通い、朝から晩までユナイテッドシネマで過ごしていたので、腰が痛いです^^;)

というわけで、今年も鑑賞した作品の感想をざっくり書きたいと思います。
まずはインドネシア映画から!

※ネタバレあり。

※  ※  ※

( )内の★は個人的満足度。5点満点です。

『モルッカの光』(★★★★★)
モルッカの光_ポスター
英題:We Are Moluccans
2014年/インドネシア/150分
監督:アンガ・ドゥイマス・サソンコ
キャスト:チコ・ジェリコ、シャフィラ・ウム 他

宗教対立で暴動が多発するインドネシアのモルッカ諸島(マルク諸島)のアンボン島が舞台。子どもたちを暴力から遠ざけるためにサッカーを教える男性の奮闘ぶりと子どもたちの成長を描く、実話を基にした物語です。
2時間半と長いですが、その長さも必然だったと思える、スポ根ものとしても人間ドラマとしても社会派ドラマとしても堪能できる素晴らしい作品でした。
この作品は招待作品ではなく、インドネシア特集での上映だったので上映回数が少なかったのが、とても残念でした。上映後のQ&Aでも「今年の本映画祭で一番感動した」と仰っているお客さんがいたほどいい作品で、私ももっと多くのお客さんに見てほしかったです。

同じ島内にありながら信仰する宗教の違い(ムスリムとキリスト教)によって地域間で対立が勃発したアンボン島。
子どもたちが暴動に巻き込まれるのを防ぐために、かつて国内代表候補にもなったことのある元サッカー選手・サニが、子どもたちを浜に集めてサッカーを教え始めるところから物語は始まります。
それから5年。すでに事態は収拾し、地域は落ち着いていましたが、サニのサッカー教室は続いていました。すでに当初の目的は果たしたのにも関わらず、家族を犠牲にしてサッカーを続けるサニに、妻はいい顔をしません。また、共にコーチングを務める友人のラフィからは、本格的なサッカークラブとしての活動を始めて練習だけでなく試合を、と勧められます。

物語は、子どもを救うための慈善活動から、利益や勝負の絡んだスポーツドラマ、そして家族とサッカーの間で揺れ動くサニの苦悩を描いた人間ドラマへと発展していきます。
また、物語の主な舞台はアンボン島の中でも「トゥレフ」というムスリムの地域なんですが、サニ率いるトゥレフのチームは対立していたキリスト教の地域のメンバーを加え、モルッカ島の代表チームとして全国大会へ挑みます。チームは「地域の融和」のシンボルとなるわけですが、宗教対立が子どもたちの心に残した傷は深く、チーム一丸となって試合に挑むことができません。
そんな子どもたちが、同じ「モルッカ人」(英題は「We Are Moluccans」)として絆を深めていく、成長の物語でもあります。

今後、日本での上映機会があるかはわかりませんが、もし機会に恵まれた方は、ぜひ見てほしい作品です。
アンボン島の自然も美しく、映像もとてもきれいです。主に島内から集められたという子どもたちのサッカー、演技も大変素晴らしいです。主人公サニを演じたチコ・ジェリコさんの熱演も圧巻。おすすめの1本です。

『動物園からのポストカード』(★★★★)
動物園からのポストカード_ポスター
英題:Postcards From the Zoo
2012年/インドネシア/96分
監督:エドウィン
キャスト:ラディア・シェリル、ニコラス・サプトラ 他

こちらもインドネシア特集での上映作品。
動物園を舞台に動物と人間の関係をシュールに描いた、希望はないのに心地よい不思議な作品でした。

個人的に「動物園」には懐疑的で(動物愛護とかそういう観点ではなく、なんとなく違和感を覚える)、動物たちを世界中から集めて檻の中で育てる、それを檻の外から眺める、という空間が、私にはどうも馴染めません。その「違和感」がこの映画では見事に表現されていたかな、と思いました。

とても興味深かったのは、ヒロインを軸に変化していく関係性でした。
動物園では、動物=見られるもの、人間=見るものor(動物を)世話するもの、という関係が成り立ちますが、ヒロインの立場は「世話するもの」から「世話されるもの」、「見るもの」から「見られるもの」へと変化していきます。
ヒロインは幼い頃に動物園で捨てられ、動物園で育ったため外の世界を知らないのですが、園内で謎のイケメンマジシャンと出会い、彼に連れられて外の世界へと出ていきます。マジシャンの保護を受けながら、彼女は「世話されるもの」に、マジシャンの助手(大道芸人)として「見られるもの」になります。
しかし、ある日突然マジシャンが姿を消します。保護者を失い、外の世界で生きる術を失った彼女は風俗業界で働くことになるのですが、そこで今度は男性客の「世話をするもの」になるわけですね。前半、動物をシャワーで洗うシーンを流し、後半には風俗店の男性客の背中を流すシーンを入れる。絶妙でした。

園内の客をメインに写したロングショットが終盤増えてくるのですが、それらのシーンを見ていると、動物園に集まる人間たちもまた動物であることを認識させられます。動物園の客は「動物園」という檻の中にいる動物。人間の世界も動物園と同じ構造を持った世界なのかな、と。

ヒロインはどんな状況でも表情をあまり変えなくて、変化が見られたのはマジシャンと出会った(恋が芽生えた)時くらいでした。風俗店で働くようになっても表情は変わらず、淡々と仕事をこなしていく姿が何とも言えませんでした。
動物園の檻の中で暮らす動物たちの気持ちがわからないように、ヒロインの思いもまたわからない。
この「感情表現の欠如」が、希望がないのに不思議な心地良さを感じる理由かなあと私は思っているのですが、どうでしょうか。。。

『オペラジャワ』(★★★★)
オペラジャワ_ポスター
英題:Opera Jawa
2006年/インドネシア/120分
監督:ガリン・ヌグロホ
キャスト:アルティカ・サリ・デヴィ、マリティヌス・ミロト、エコ・スプリヤント、ジェコ・シオンポ 他

「ラーマーヤナ」という古典(起源はインドらしい)を基にした、ある女性を巡って起きた三角関係の悲劇。ジャワ島の民族舞踊や音楽をアレンジしたミュージカルのような作品で、舞台を見ているようでした。といっても、舞台は観客から見ると平面的だけど、これはカメラが視点を自在に変えるので、舞台を立体的に見ているような感覚でしょうか。
ただ、クライマックスに睡魔に襲われて、一番肝心なところを見逃したという。。。残念です。

映画で舞踊の一部を担当しているダンスカンパニーのJeckoSDANCEが今回来福していたので、映画の上映前に彼らのパフォーマンスを見ました。
初めて見るコンテンポラリーダンス、しかも1時間という長さで最後まで飽きずに見られるかどうか不安もあったのですが、あっという間の1時間。とても楽しかったです。
彼らのパフォーマンスはストーリー性を感じるところがあって、この動きは何を意味するんだろう?と謎解きのように考えながら見ていたら、夢中になっていました。動きそのものもとても魅力的。この1時間のため(ダンスの作成から練習も含めて)にどれだけの時間が費やされたのかと思うと、感嘆の溜息しか出てきませんでした。

映画祭が始まる前は映画のみ鑑賞予定でしたけど、ツイッターで彼らのダンスの感想を見て、急きょダンスも鑑賞することにしました。
見て大正解でした!

『黄金杖秘聞(おうごんじょうひぶん)』(★★★)
黄金杖秘聞_ポスター
英題:The Golden Cane Warrior
2014年/インドネシア/110分
監督:イファ・イスファンシャ
キャスト:エヴァ・セリア、ニコラス・サプトラ、レザ・ラハディン、タラ・バスロ、クリスティン・ハキム 他

武術者の権威である黄金の杖をめぐって若い男女が戦うアクション大作。
インドネシア映画界のスターや有名な監督さんたちが集まって制作されたという大作なんですけど、本国での興行収入は振るわなかったそうで。十分楽しめるのですが、ちょっと物足りないかなあという印象は確かに受けました。
撮影はインドネシアのスンバ島という未開発の離島で行われたそうです。インドネシアと言うとジャングル(森林)のイメージが強かったので、スンバ島の枯れた大地と青空の風景は新鮮で、とても美しかったです。

ヒロインを始めとする美男美女のアクションは見応えあり。でも、彼ら以上に目を引くのがヒロインの弟くんです。日本で言うと小学1年生くらいの丸坊主の少年が、大人顔負けのアクションと演技で魅せてくれます。
また、大きな目と太い眉が印象的な美少女ヒロインと、スレンダーでクールな敵役女性によるキャットファイトも見所です。

キャストは、インドネシアを代表する女優クリスティン・ハキムさんや、『動物園からのポストカード』にも出演しているニコラス・サプトラさん、そしてアジアフォーカスで過去に上映された『聖なる踊子』『ジャングル・スクール』で主演を務めたプリシア・ナスティオンさんもチョイ役で出演しています。

『クルドサック』(★★★)
クルドサック_ポスター
英題:Kuldesak
1998年/インドネシア/110分
監督:リリ・リザ、ミラ・レスマナ、ナン T.・アハナス、リザル・マントファニ

アジアフォーカスの公式サイトにある解説をそのまま引用しますが

今やインドネシア映画界の中心的存在であるプロデューサーのミラ・レスマナ、監督のリリ・リザが若き日に、女性監督ナン・アクナス、リザル・マントファニらとともに製作したインドネシア・ニューシネマの草分となった作品。また彼らの職業映画人としての出発点でもある。都会の片隅で夢を持ち生きる若者たちを、4人がそれぞれに短編映画として撮り、1本の作品に再構成した。各自の個性とみずみずしい感性に溢れた作品。

袋小路に陥っていた当時のインドネシア映画界で、リリ・リザ監督を始めとした若い4人の監督が集まり、風穴を開けたとも言える記念すべき作品、だそうです。
「クルドサック」はフランス語の「キュル・ド・サック」(袋のお尻、行き止まり、といった意味)から派生する言葉だそうで、この作品の物語もまさに、人生に行き詰った若者たちの苦悩を描いています。ただ、インドネシア語では「袋小路」という意味で使われることは滅多にないそうで、タイトルに込められた意味は観客に委ねた形になっているようです。

それぞれが撮った短編映画を再構成したもので、物語はそれぞれ独立していて交わることのない群像劇なんですが、異なる境遇の者たちの物語は同じ空気を共有していて、あくまでも1本の映画として成立しています。最後まで飽きずに楽しむことができました。
それぞれの物語にテーマをつけるとすると「孤独」「友情」「夢」(残り1つは他から少し浮いていて、ちょっとわからない)でしょうか。登場人物たちの年齢的に、青春映画と呼ぶのはちょっと違うかなあと感じつつも、やはり若者特有の閉塞感を感じる作品です。
大量のハリウッドポスターに囲まれた、映画監督志望の男性のストーリーが印象的で、監督がこの映画にかけた強い意志を感じました。

『シェリナの大冒険』(★★★)
シェリナの大冒険_ポスター
英題:Sherina’s Adventure
2000年/インドネシア/114分
監督:リリ・リザ
キャスト:シェリナ・ムナフ、デルビィ・ロメロ 他

父親の農園経営という夢のために、転校することになった勝ち気な少女シェリナ。引っ越した先で彼女に起きた事件と成長を描くミュージカル映画です。
80年代くらいのドラマを見ているような演出でちょっとびっくりしたんですが、ベタな演出がかえって心地良かったり。肩の力を抜いて楽しめる作品でした。今でも、シェリナが歌うメインテーマが頭から離れません^^;

インドネシア特集と題してインドネシア映画を上映するだけではなく、シンポジウムも行われていました。
公式サイトにシンポジウムのリポートが出ていたので、リンクを貼っておきます。インドネシア映画はこの映画祭で年に1本見る程度で、インドネシアの映画を巡る状況については何も知らないのですが、このレポートはとても興味深かったです。
こういうシンポジウムにも参加すると、また新しい映画の魅力に出会えるかもしれませんね。
シンポジウム「インドネシア・ニューシネマの夜明け『クルドサック』をめぐって」
シンポジウム④「インドネシアの若手監督に訊く」

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