アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015(3)~東南・南アジア

アジアフォーカスの感想。インドネシア編東アジア編に続いて、今回はインドネシア以外の東南アジア、南アジアの作品の感想を。
(写真ばっかりアップしているうちに、前回から1か月経ってしまいました…)

※ネタバレあり

※  ※  ※

( )内の★は個人的満足度。5点満点です。

『裁き』(★★★★★)
裁き_ポスター
英題:Court
2014年/インド/116分
監督:チャイタニヤ・タームハネー
キャスト:ヴィーラ・サーティダール、ヴィヴェーク・ゴームベール、ギータンジャリ・クルカルニー、プラディープ・ジョーシー 他

舞台はインド・ムンバイ。無実の罪で逮捕された活動家の保釈を巡って繰り広げられる裁判を、弁護士・検事・裁判官の日常を交えながら描く。固定カメラのシンプルな画面構成で、社会のさまざまな姿を映し出す手法が素晴らしく、非常に完成度の高い作品でした。
監督はまだ28歳。若き才能に脱帽です。

法廷劇でありがちなスリリングな展開はほとんどなく、「最後に正義は勝つ」もなく、「巨大権力の前に屈する正義」もなく、あくまでも、裁判所で働く人々や周辺の人々を描くことに徹底した作品でした。監督自身の興味がそこにあったそうで。

主役となるのは、裕福な家庭で育った若手の人権派弁護士、訛りの酷い英語を話す検事、下級裁判所の裁判官、の3人ですが、監督は決して彼らに肩入れすることはなく、かといって彼らを批判するわけでもなく、彼らの日常を冷静に見つめていて、その距離感がとても良かったです。
その距離感と言うのはカメラの位置にも表れていて、結構引いた画が多いんですね。
人々が行き交うムンバイの街を、少し離れたところから撮っている。その中には、カメラが追う人物だけでなく、その街で生きる人々の姿も映しだされていて、それがムンバイの今を映し出しているわけです。
特に印象的なのが、逮捕された活動家のパンフレットを印刷する印刷工場の場面。
カメラは引いて、やや上から活動家を映しているのですが、その画面の端っこに、慣れた手つきで素早く雑誌にチラシを挟んでいく一人の労働者が写っています。その場面の主人公は彼ではないのに、観客は彼のリズムの良い手さばきに引き付けられます。その労働者の正体というのが、不法滞在者なんですね(これは上映後のQ&Aで監督から聞くまで、私はわかりませんでした)。

社会的立場の弱い者の弁護を引き受けながら、一方でプライベートには高級エステに通う若手弁護士(ちなみに男性)の姿には一瞬違和感を覚えましたが、裕福な家庭に生まれ、欧米の価値観を学んだからこそこういう道を選んだとも言えるわけで。
何気ないシーンの中にインドの複雑な実情が顔を出し、退屈になりがちな展開にも関わらず、最後まで面白く、集中して見ることができました。

ポスターの下部にも書かれているように、この作品はベネチア国際映画祭などいくつもの国際映画祭で賞を受賞しているのですが、それも納得の内容でした。
もし見る機会がありましたら、ぜひ見てほしい1本です。

『インビジブル』(★★★★)
インビジブル_ポスター
英題:Invisible
2015年/フィリピン・日本/135分
監督:ローレンス・ファハルド
キャスト:アレン・ディソン、セス・ケサダ、ベルナルド・ベルナルド、J・M・デ・グズマン、リッキー・ダバオ 他

過去2回のアジアフォーカス上映で強烈なインパクトを残したファハルド監督が、福岡市フィルムコミッションの支援を受けて制作した作品!今年一番楽しみにしていた作品でもありました。
舞台は福岡と札幌。それぞれの土地で暮らすフィリピン人出稼ぎ労働者達の苦悩と悲哀を描いた作品です。
「インビジブル(Invisible)」は、目に見えないもの、と言った意味ですが、タイトル通り、日本社会の陰でひっそりと暮らす出稼ぎ労働者達の日常が描かれます。

この作品は舞台が日本(しかも福岡)ですし、特にアジアフォーカスでファハルド監督の作品を見てきた人にとっては、見る前から特別な作品になるんじゃないかという期待もあったのではないかと思います(少なくとも私はそんな期待がありました)。彼から日本、福岡へ向けたメッセージ的なものも込められているのではないかと思ったりもしたのですが、いやいや、ファハルド監督はあくまでも自身の母国へ、熱い眼差しを向けていました。

Q&Aでは、日本人と外国人出稼ぎ労働者との関係性について言及するお客さんもいましたが、この作品のテーマはそこではなく、母国の家族のために異国の地で働くフィリピン人たちの生き様、でした。
コミュニティのリーダー的存在の女性がいて、彼女の周りには多くの同胞たちが集まるのですが、反対にコミュニティから孤立してしまった若い男性もいたり。同じフィリピン人だからと言って「みんな仲良く」と簡単にいくわけではなく。
基本的には助け合って生きていますが、いつ日本から追い出されるかわからないギリギリのところで生きている彼らにとって、リスクは大敵。足を引っ張る者に対しては、時に冷酷とならざるをえません。
異国の地で生きる人々の濃密なコミュニティの光と影が、くっきりと浮かび上がる作品となっていました。

これまでアジアフォーカスで上映された『アモク』や『果てしなき鎖』のように、フィリピンの熱気がスクリーンから溢れるようなギラギラした作品とは一変して、今作は白黒に近いコントラストの低い映像でした。それは、自身の存在を隠しながら、でも消えないように、と生きる出稼ぎ労働者たちの心のようでもありました。

期待を裏切らない、いい作品ではあったのですが、俳優さんたちの日本語が棒読みだったのが気になりました。日本語が流暢でかつ演技のうまいフィリピン人を探すのは大変でしょうし、短期間で外国語を流暢に話すようになれるわけもないし、仕方ないのかなあと思いますが、内容は良かっただけに、その点が際立ってしまいました。
まあでも、気になったのは本当にそれぐらい。俳優さんたちの演技も(日本語以外は)良かったです。特に、ベンジー役を演じたベルナルド・ベルナルドさんの人情味溢れる演技にはとても惹かれました。終盤は涙がこぼれましたね。。

最近は福岡でも、距離の近い韓国や中国だけでなく、東南アジア系の言葉を話す人たちを見かけることが多くなりました。そのたびに、この作品を思い出します。

『超人X.』(★★★★)
超人X._ポスター
英題:Super X.
2014年/ベトナム/81分
監督:グエン・クアン・ズン
キャスト:ファム・タイン・ハン、ゴー・キエン・フイ、チャン・ファン・フイ・カイン、ジェップ・ラム・アイン 他

ひょんなことから超越したパワーとスピードを身につけ「ヒーロー」となったゲイの青年の日常と苦悩を、コミカルに描いたベトナムの異色アクション。
お寒いギャグから始まりどうなることかと思ったら、後半から予想もしない斜め上の展開に。最後はやりたい放題でぶっ飛んでいて、十分楽しませてもらいました。

ゲイのヒーローというのはあまり見られないので新鮮でしたが、それ以上にびっくりしたのがG(夏に現れる黒いアレ)でした。まさか映画館の大スクリーンで大量のGをドアップで見せられるなんて(笑)。Gは苦手なので、アップで映った時にはスクリーンから目を背けたかったです。。がんばって見ましたけど!!
このGが登場したあたりからストーリーも斜め上に飛んでいって面白くなるので、Gがなければこの映画の面白さは半減していたかもしれないんですけどね。
後半の面白さに、★4つです。

続編を思わせるラストでしたが、Q&Aでの監督のお話によると、本国での興行収入は思わしくなかったようで、続編の制作はちょっと厳しいそうです。
それにしても、貴重な映画体験となりました。スクリーンでGのアップですよ?こんなのないよ(笑)

『蒼ざめた時刻(とき)』(★★★)
蒼ざめたとき_ポスター
英題:The Blue Hour
2015年/タイ/96分
監督:アヌチャー・ブンヤワッタナ
キャスト:アタパン・プーンサワット、オープニティ・ウィワタナラン 他

出会い系サイトを通じて知り合ったゲイの若者2人に起きる出来事を、ホラー仕立てで描いたタイ映画。
青を基調にした絵が美しく、とても丁寧な作りで、監督の美意識の高さを感じました。
ホラー映画のような演出は、孤独な若者の不安そのもの。
Q&Aでは原題「The Blue Hour」の意味について議論が白熱したのですが、昼と夜の間の境界線が交わる、美しさと不安の押し寄せる空を思わせるタイトルは、作品にぴったりだと思いました。
主役の2人の美しさにも注目です。

2 comments to “アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015(3)~東南・南アジア”
  1. 3作品が自分が観たのと合致。インドの「裁判」のと、フィリッピンの「日本への労働者」のと、タイの「Blue基調のオカルトっぽい」  ←3本です。すみません、正式映画題名の表記をネグっています。きちんとした観賞の文章を読めて立派だなあと感心致しております。

    • >Shunseiさん
      コメントありがとうございます!
      忘れっぽい性格なので、備忘録を兼ねて感想を書きとめています^^;
      毎回時間がかかってしまいますが、こうして書くことでちょっとは覚えることもできてるかなあと。

      2個目のコメントの件ですが、サイトの仕様で不要な文言が出てしまっていました。
      削除しましたので、以後出ることはないかと。
      お知らせいただき、ありがとうございました。

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