『僕の初恋をキミに捧ぐ』

試写会に行って来ました。公式サイトはこちら
「寿命は20歳まで」と言われた心臓病の少年とその彼女との恋、ということで、いわゆるケータイ小説的なお話なのかと思い、全く期待せずに観たのですが、思っていたよりずっとよく作られていました。

主演は、主人公タクマに岡田将生、その彼女マユに井上真央。
岡田くんなる俳優さんは今回初めて観ました。井上真央ちゃんはすっかり人気女優になったんですね。『キッズウォー』の頃から随分あか抜けたな、としみじみ思いました。
タクマの両親に杉本哲太、森口瑤子、マユの父親(でありタクマの主治医でもある)に仲村トオルと、脇はしっかり固めてあって、その点も安心して観られた理由かな。

物語は主人公の二人が8歳の時のエピソードから始まります。
心臓病の治療のために入院しているタクマ。父の職場に出入りするマユ。二人の恋は病院から始まったらしいのですね。
この作品の見所は、この序盤の8歳のエピソードです。子役の二人がとんでもなく上手です。そして、やりすぎです!(何をやりすぎなのかは観てのお楽しみ、うふふ)
目がテンになるくらい、こんな演技観たことないです。びっくりしゃちゃった。
序盤から涙涙のオンパレード。この二人の演技だけでも観る価値ある、と断言したくなってしまうほど。いや、本当にすごかった!

タクマとマユはこの8歳の時に、偶然タクマの命が20歳までもたないことを知ってしまいます。それでも二人は「大きくなったら結婚しよう」という、タクマが言うところの「最低の約束」をします。

物語の中心は彼らが高校生になってから。15~16歳がメインです。
小粒な恋のライバルの出現などを経て、二人の間の愛情を確かめ合う二人。しかし、タクマの命には限界が迫っていて……という感じで、予想通りの展開で進んでいきます。

この映画に限らず、この手のものはなにかと宣伝で「純愛」を連呼しますが、そもそも「純愛」って何だろう、と思うんです。
おそらく、周りの迷惑も考えず、二人の間の愛をただひたすら信じて突っ走る、いわゆるKYな恋愛を言うのだろうと思ってはいるのですが。要するに、ただの一途な感情だと思うんです。
この物語もそうなんです。ただひたすらに真っ直ぐ。

「青春って小恥ずかしい」と思いました。この映画観て。
主人公二人やその同級生のすべての台詞や行動がなんだか笑えちゃうんです。でも、それは馬鹿にしているわけではなくて、愛らしいのね、すごく。
それは彼らが「15歳だから」ということに尽きるんです。これが15歳の(おそらく標準的な?)精一杯の生き方だし、恋愛の仕方で。

私にもこういう「純愛」「お涙頂戴」的作品を嫌悪していた時期はありました。
ストーリーは予定調和ですし、命に制限をつけなければ恋愛を描けないなんて、「物語」としてあまりにも安易すぎる。物語を作ることを自ら放棄しちゃってる、と正直思いますもん。
でも、その作者のやり方と、実際に物語で生きている登場人物は別なんですね。動く彼らを観ていると、どうしても馬鹿にはできないんです。だって一生懸命なんだもん。物語の中では一生懸命に生きているんです、彼らなりに。なんていうか、甲子園と一緒なんですよね。わかっていても、感動せずにはいられないんです。
それに、自分の15歳の頃を思い出すと彼らよりずっと恥ずかしくて馬鹿な行動をしてたんですよ、私。きどっちゃって。「冷静な私って他の子よりオトナ」みたいな(笑)。
あれを思うと、なんだかもう、こういう青春ムービーにいちいち反抗するのも馬鹿らしくなっちゃって。

でも、本当に主役の二人だけに的を絞った描き方だったら、こんなに評価はできなかったかもしれません。
子役の二人もそうだったように、脇がとても良い味を出していました。
タクマのルームメイト・杉山(窪田正孝)や中学時代の英語の先生(お馴染みの役者さんなのに名前が思い出せない……)など。特に杉山くんは、台詞は10もないのに(名前も本人が一度自己紹介した時に言っただけで、誰からも呼ばれていなかった気がする)存在感があって、彼がいるのといないのじゃ全然違うなあ、と思いました。
ほんの小さなシーンでも、友人と笑顔で語らうシーンがあるかないかでは全然違ってくるんですね。青春って「恋」と「友情」に尽きるなあ、とつくづく思いました(あと「生きるって何だろう」という自問自答)。

しかし一番良かったのは、タクマの母親役を演じた森口瑤子さんでした。
地味な哲太さん(失敬)がどうやってあの美人で色気のある奥さんを射止めたのだろう、とかどうでもいいことを考えずにはいられないほど、強烈な印象を残していました。
特にマユに対する嫉妬心(?)がよかったです。
タクマが全寮制の高校に進学したい、と言い出した時、マユと同じ高校に行きたいからだ、と勝手に妄想してマユに「タクマに(その高校を)諦めるようにあなたから言って」と直訴しに行ったり。最後のほうでは、自分達の目を盗んでタクマと外出したマユの頬を引っぱたくし。

女親というのは、やっぱり息子がかわいいんでしょうか(男親は逆)。うちもそうですけど、母は弟の彼女に嫉妬したりするんです(笑)。私の恋愛には一切口出ししないどころか何も聞いてこないのに。
マユがタクマの時間と心の大部分を奪ったことに、タクマの母親はきっと嫉妬していたと思うんです。本来なら別れさせたいくらいのことは思っていたんじゃないかと。森口さんの表情とか佇まいが、余計そう思わせてしまって(とにかく美人過ぎるんです。しかも憂いのある美人)。
彼女がラストでマユに「ありがとう」と伝えた時は、「これが大人の対応か」と思いましたけど、あれからもずっと心の中に何かもやもやしたものを抱えながら生き続けるんじゃないかと、ふと思いました。
父親はそんな二人の間の見えない火花を気にもせず突っ立てるところが、また何とも言えない(笑)。哲太さん……いいなあ。

あと、シングルファーザー役の仲村トオルさんも必見です。
そう、男親は娘の恋路にヤキモキするの(笑)。

一つ残念だったのは、主役の二人がどうしても15歳には見えないこと。その違和感が最後までずっと足を引っ張ります。どうにかして17~18歳に設定変更できなかったのかと思ったけど、そこは変えたらいけなかったのかなあ。

タクマと同じ心臓病を抱えるテルという女性(原田夏希)も、設定上は一度も恋をしたことがないという20歳の女性なんですが、原田さん自身の色気が隠しきれてなくて(そのおかげで何か「意味ありげ」な雰囲気を醸し出して、登場した瞬間から目を引く役柄だったのだけど)、どう見ても25歳にしか見えないんです。
真央ちゃんもですけど、年相応に見えることが完全に裏目に出たように感じました。そこがもったいなかったです(かと言って、役者をもっと若い子にすればよかったとは思えないんだなあ。それぞれ良い味出していたし……)。

そんなこんなで、予想していたよりずっと楽しむことができ、後味の良い作品でした(本当に期待してなかったんです、ごめんなさい)。
少女漫画が原作だそうで、いかにも漫画的な言動をする鈴谷くん(細田よしひこ)という「学園のアイドル」が出てきたりしますが、そこは「もとは漫画、もとは漫画」と割り切りました。あんな人、現実にはいないもん(笑)。
でも、それもコンプレックスの裏返しと暗示していたのはよかったかな。それがなかったら、彼の役割に納得できませんでした。

……上のほうで、

これが15歳の(おそらく標準的な?)精一杯の生き方だし、恋愛の仕方で。

と書きましたけど、この見解は間違っているかもしれません。
作者(あるいは読者)の願望とも言えるんですよね、こういう物語って。
青春を描くのはいつも大人で、その描く大人が青春時代に見たこと経験したことを書いているかといえば必ずしもそうでないわけで。作品に描くことで自分が経験したかった青春をやり直していることもあるかもしれないんですよね。
この漫画の原作者がどういった意図でこの作品を描いたのか、私には知る由もないし、知りたいとも思わないけれど。

青春(というか少年少女)にもステレオタイプみたいなものがあるけれど、本当に皆がそれを経験しているかどうかなんて、誰にもわからない。
誰も経験していないからこそ、憧れとして、夢物語としてステレオタイプがあるのかもしれないですし。
大人になってから感動する青春物語に、どれだけ本当の「共感」があるのかもわかりません。自分の記憶の中にある過去は本当の過去だと確信持って言える人が、どれだけいるだろう。
少年少女の青春物語に感動するのは、ただ一生懸命な姿に惹かれているだけ。今の自分は、がむしゃらに真っ直ぐに(大人の世界で言う「KY」)な生き方はできないから。恋愛にしても。

私の場合は嫉妬でしょうか。一生懸命な青春を見ると、嫉妬してました。
この物語もそうですけど、こういった恋愛や青春は経験できなかったから。わずかな共感さえ得られなかったですし、ただ羨望の眼差しで見るしかないんです、もう取り戻せない時間を。
今までこういった物語が嫌いだったのは、それが理由だったんだと思います。ただ悔しかっただけなのね、そういう生き方ができなかったのが。
30前にして、やっと楽しめるようになった(笑)。

こういった物語を、10代の少年少女はどんな風に観るのでしょうか。試写会にも10代らしき女の子達が随分いましたが。
泣いている人は多かったです。映画って、試写会だろうが映画館だろうが、エンドロール始まったら立ち上がる人は結構な割合でいますけど、今日は立ち上がる人がほとんどいませんでした。みんな余韻に浸ってたのかなあ。

素直に楽しめました。1800円出して観るか、と言われたら「観ない」と答えますけど(笑)。でも、1000円なら軽く出せるかな。
真央ちゃんファンにはおすすめできます。髪型も服装も頻繁に変えて、「井上真央ファッションショー」のようでした。本当に可愛くなりましたね。

……もしかしたら男性向けの作品かもしれません。真央ちゃんに原田夏希さんに森口瑤子さんに。見所は女性ですので。

2 comments to “『僕の初恋をキミに捧ぐ』”
  1. はじめまして。
    「窪田正孝 演技」で検索して辿り着きました。
    窪田ファンとして観に行く価値はあるのかどうか情報探索中なのですが、あまみっくさんの映画評を拝読して決心しました。
    とりあえず、11月1日に観に行ってみます!
    どうもありがとうございました。

  2. >ラコさん
    コメントありがとうございます。
    主観に偏った稚拙な感想にそんな風に仰っていただけるなんて、何だか恐縮です(^^;
    ラコさんは窪田くんファンなのですね!
    窪田くんは病気との闘い、そして恋に一生懸命な主人公を熱演していましたよ(^^)
    楽しんできてくださいね!!

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