森絵都『カラフル』

森絵都さんの著作『カラフル』を読みました。

ある過ちを犯して死んだ「ぼく」に、天使から与えられた修行。
自殺をして死んだ14歳の中学生「小林真」の肉体に入り、彼として生きること。
自分が犯した罪を思い出し、向かい合うことができたときに、「ぼく」の魂は輪廻のサイクルへと戻ることができる。

自分が生きてきた人生さえも忘れてしまった「ぼく」が「小林真」という少年になり、真の家族、初恋の相手、友人、クラスメイト……真と周囲の人々との間にできた深い誤解とわだかまりを解いていく物語。

作者の登場人物たちに対する優しい眼差しが嬉しくなる、素敵な作品です。

以下、結末は書いてないけど地味にネタバレ。

主人公「ぼく」の一人称で、いわゆるライトノベル系の文体のようです。純文学系の小説が苦手の方でも読みやすいと思います。

もう少し詳しいストーリーを、Amazonから抜粋。

死んだはずの「ぼく」の魂にむかって天使が言った。「おめでとうございます、抽選にあたりました!」。そうして、ぼくは輪廻のサイクルに戻るために、下界にいるだれかの体を借りて(天使業界では「ホームステイ」というのだそうだ)前世で犯した悪事を思い出さなくてはならなくなった。
乗り移ったのは「小林真」という自殺したばかりの14歳の少年。ところが、真は絵を描くのが得意な以外は、親友と呼べる友だちもいない、冴えないヤツだった。父親は自分だけよければいい偽善者で、母親はフラメンコの先生と浮気中。しかも、好きな女の子は、中年オヤジと援助交際中ときた。しかし、ホームステイの気楽さも手伝って、よくよく周りを見回してみると、世界はそんなに単純じゃないってことが次第にわかってくる。

ストーリー展開も巧みです。
「ぼく」を小林真の体へ送り込んだ天使・プラプラからもらった事前情報(↑の引用内に書いてあること)と違う真実が次々と明らかになり、戸惑う「ぼく」。
しかし、次第に家族や友人と打ち解け、自分の居場所を見つけ出した「ぼく」は、その場所を本当の「真」に返してあげたいとプラプラに願い出る。するとプラプラは突然「24時間以内に自分が犯した罪を解明したら戻してあげる」と言う。
生前の罪にまったく気付かない「ぼく」が、不安と焦燥の中で罪を探し始める終盤は、ページをめくる指を止めることができません。

「ぼく」が犯した罪とはなんだったのか。
自殺してどこかへ行ったままの本当の「真」の魂は、無事肉体に戻ることができるのか。
肉体に戻ってきて、「ぼく」が気付いた家族や友人たちとの関係をきちんと引き継ぐことができるのか。

ドキドキが止まらず、真夜中に読み始めて気付いたら朝方になっていました。
そして結末には「ああ、よかった」と、この結末を与えてくれた作者に感謝したい気持ちでいっぱいになりました。

特筆したいのは、作者の登場人物に対する優しい眼差しです。
作者が「ぼく」と「真」を愛していることがよくわかります。読後に感じた感謝の気持ちは、まさにそのことに対してでした。
「ぼく」視点で書かれていることもあって、私はかなり「ぼく」に近い視点で物語の中にいました。だからこそ、作者がくれた結末に「ありがとう」と言いたくなったのだと思います。

扱っているテーマ自体は重いです。
自殺、いじめ、孤独、後輩の援助交際と病、親の不倫、兄との確……等々。
これらのテーマをあえて深く切り込まずに、すべてが真の人生の中の一つの出来事(重さに順位はない)として扱われています。
「ぼく」という他者を真に割り当てたことによって、真が自殺未遂をした少年であるという点も深刻になっていません。「ぼく」はあくまでも他人として、真や彼の周囲を見つめているからです。
それに「ぼく」は、真の自殺を考える以上に、自分が真として“今”を生きていくのに精一杯になっています。

ここがポイントだと思いました。

生きていく中で、一つ一つの問題に深く、ゆっくりと対処する暇など、正直言ってありません。
悩んでいる間にだって時間は過ぎていきます。
気付いたら翌日になっていて、一ヶ月経っていて。知らぬ前に時間が終わらせてくれた問題もあるわけで(この作品で言うといじめ)。
一つの問題を順番に片付けていくのは不可能で、あらゆる問題と同時に向き合いながら生きていかなければなりません。
真はその対処法として自殺を選びました。
真の肉体に入った「ぼく」は死ぬわけにはいかないので、自分なりに対応し、周囲と傷つけ合いながらも、生きることがどういうことなのかを肌で理解していきます。

天使が与えた事前情報は、あくまでも生前の真が見ていた世界です。
周囲と関係を築いていく中で、「ぼく」は事前情報と違うことに戸惑いますが、同時にそれは真が見ていなかった世界であることに気付きます。

世の中には、たとえ身近な人間のことであっても知らないことがたくさんある。

それは理屈ではわかっていても、人はやはり自分の目で見たもの、感じたものしか「世界」として認識しない傾向にあると思います。
改めてそのことに気付かされて、自分を省みました。

天使が出てくるし、ライトノベル調ですし、ファンタジーテイストの若年向けの作品だとは思います。実際に児童文学の類に入るようですし。
でも私には、「この作品は若者におすすめ」と言うことはできません。私がこの作品をもっと若い頃に読んでいたらどう感じていたのかさえ想像できなませんから、今の中学生がこの作品を読んでどう感じるかなんてわかりっこないんです。
だから、責任を持って自信を持って、若者に薦めることはできないんです。
ただ言えるのは、この作品が悪い影響を与えることはほとんどないのではないかということです。
そういう意味で、文章が理解できる人なら誰でも読んでいい作品だと思います。

別に「生きること!」について重く深く考える必要もなく、エンタメとして読んでも十分に面白い作品です。興味を持たれた方は、私みたいに気軽に読んでみてください。

カラフルカラフル
著者:森 絵都
理論社(1998-07)
おすすめ度:4.5
販売元:Amazon.co.jp
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