『クロッシング』

2002年3月に起きた「北京駐在スペイン大使館進入事件」(脱北者25名がスペイン大使館に駆け込んで韓国亡命に成功した)をモチーフに製作された韓国映画。

日本からは見えない北朝鮮の市民の生活、命をかけた脱北、家族の愛とすれ違い。涙が止まらない作品でした。

以下、ネタバレです。
8割くらいネタバレしてます。これから観賞予定の方はできれば読まないで見て欲しい、です。。

ストーリーについては公式サイトから抜粋。

北朝鮮の炭鉱の町に住む三人家族。炭鉱で働く元サッカー選手のヨンスは、妻・ヨンハと11歳の一人息子のジュニとともに、貧しいけれど幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、ヨンハが肺結核で倒れてしまう。北朝鮮では風邪薬を入手するのも難しく、ヨンスは薬を手に入れるため、危険を顧みず、中国に渡ることを決意する。 決死の覚悟で国境を越え、身を隠しながら、薬を得るために働くヨンス。脱北者は発見されれば容赦なく強制送還され、それは死をも意味していた。
その頃、北朝鮮では、夫の帰りを待ちわびていたヨンハがひっそりと息を引き取る。孤児となったジュニは、父との再会を信じ、国境の川を目指す。しかし、無残にも強制収容所に入れられてしまう…。

私たちが思い浮かべる北朝鮮とはどんな国でしょうか。
私が思い浮かべるイメージは、一糸乱れぬ軍隊の行進、同じ衣装を着て「金正日」の名を泣き叫ぶ女性たち。そして朝鮮中央放送の女性アナウンサー。。
北朝鮮とは私にとって地理以上に遠い国で、気味の悪い国でしかありませんでした。そこに住む人々が私たちと同じように、食事時に家族と談笑し、サッカーに夢中になり、学校へ行き、同級生に恋をする。
そんな生活を送っているなんて、考えたこともありませんでした。

確かに北朝鮮は金正日による独裁体制が敷かれ、軍による弾圧、貧困や食糧難といった問題を抱えて多くの市民が苦しい生活を強いられています。だからと言って、国民全てが笑うことも恋することも許されず、人間らしく生きることができないでいる“不幸な人々”かと言えば、決してそうではない。

冒頭は、主人公ヨンス(チャ・インピョ)のサッカー話から始まります。
貧しいながらも幸せに暮らすヨンス一家。この家族にこれからどんな悲劇が起こるのだろうと、はじめは想像もできませんでした。
それほどに、彼らの日常は(もちろん、貧しいし苦しいけれども)楽しく、笑っていられる日々だったんです。

元サッカー選手の父のように、息子のジュニ(シン・ミョンチョル)もサッカーが大好きです。
埃舞う乾燥した北朝鮮の大地で、父とボール(石ころ)を蹴る日々。
そして、近所に住むミンス(チュ・ダヨン)との淡い恋。
そう、北朝鮮の子ども達だって私たちと同じような青春(気持ちの面ね)を送っていたって不思議ではないんです。そんなことさえ、今までは思い至らなかったことに気付かされました。

しかし、親子のサッカーもミンスとの恋も順調には続きません。
党の許可を得て中国との貿易を行っているミンスの父・サンチョル(チョン・インギ)が、違反を犯したことから党に連行されてしまいます。
そこから次第に、ヨンス一家の運命も狂い始めていく。

妊娠して結核を患う妻のために、薬を求めて中国へ行くヨンス。
決して脱北したわけではなく、薬を買ってすぐに帰国するつもりだったヨンスですが、脱北支援グループに脱北者として扱われ、その人生は翻弄されていきます。
ヨンスにとっては「詐欺」にあったようなものです。特に大使館への駆け込み事件の場面は涙なしには見られませんでした。
事件の裏には、それを首謀するグループ(先進国のね)がいるのですが、彼らの行為が「支援」という名の商売に見えるんですね。
「お金がもらえる」と誘い出して、大使館前に連れて行き、「うまくやれよ」。

確かに、脱北者たちは祖国に帰るより、大使館に駆け込んで韓国へ亡命したほうがいいのかもしれない。でも、でも本当にこれでいいの? と思わずにはいられませんでした。……それ以外にいい方法は一つも思い付かないけど。

一方、北朝鮮に残るジュニは、父の帰りを待ち続ける日々を送っています。
しかし母が結核で亡くなり、家も失った彼は路上生活を始めることになります。そこで、同じく孤児となったミンスと再会するのですが。。

その日の食事もままならない孤児たちの社会も、とてもシビアです。
ボーっと食べ歩きをしていたら後ろから突然食べ物を盗まれ、疲れて眠りにつけば靴を盗まれる。
彼らは彼らの間で生きていくために闘い、傷付けあっているんです。

韓国へ亡命し、支援を受けながらある程度の生活ができるようになったヨンス。
脱北しようとしていたところを発見され、強制収容所へ送られたジュニ。
二人は果たして再会できるのか。
公式サイトに脱北ルートの地図(ページ下部)が掲載されていますが、地図を見ただけで目眩がするような距離です。そんな長い距離を、二人は逃げた。
特にジュニの逃亡は、孤独と雄大なモンゴル砂漠の美しさと冷たさが胸に痛いです。

過酷な物語ですが、想像していたよりは映画らしく(ドキュメンタリータッチではないということ)、美しいシーンも盛り込まれています。
特に見所なのは“雨”。
最初の親子のサッカーシーンから、この雨は乾いた大地と親子に優しく降り注ぎます。
雨のシーンの美しさは圧巻です。

ドラマチックな展開で、映画としてとても見易く作られていると思います。
観た後は「本当はこんなもんじゃないんだろう」と思うはず。
それは、これ以上に過酷で恐ろしいんだということを各自考えてくれという、制作スタッフのメッセージなのかな、と思いました。

エンドロールの最中も涙が溢れて止まりません。
自分でもこんなに泣いたのは久しぶりかも、というくらい泣いてしまいました。
「この映画、泣けるよ!」なんて下手な宣伝まがいのことを言いたくはないのですが、言わずにはいられないというか。「涙を止められなかった」とでも言いましょうか、そんな作品でした。

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