『マニラ・スカイ』『ばあさん』~アジアフォーカス・福岡国際映画祭2010

26日までとなった「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2010」ですが、今日22日に観客賞の発表が行われました
見事受賞したのはタジキスタン映画『トゥルー・ヌーン』(ノシール・サイードフ監督)です。
私が全く注目していなかった作品です……。土曜日に最後の上映が行われるようなので、見に行けたらいいなと思っています。

すでに6本(+台湾映画祭の1本)の作品を見ることができました。
当初見る予定はあまりなかった作品も中にはあって、それが『マニラ・スカイ』と『ばあさん』の2本です。
どちらもフィリピン映画で、作品の根底に流れるものが似ていると感じたので、今日はまとめて感想を書きました。

ネタバレはそんなにしてません(してないつもりです)。


『マニラ・スカイ』(レイモンド・レッド監督)
フィリピンで実際に起こった事件を基に、マニラで貧困にあえぎ苦しむ一人の男の三日間。

『ばあさん』(ブリリャンテ・メンドーサ監督)
強盗殺人の被害者と加害者、それぞれの祖母の、孫(あるいは家族)のための闘いの日々。

詳細は映画祭公式サイトの作品紹介を。

まずは初日に見た『マニラ・スカイ』から。
豊かな生活を夢見て農村からマニラへやってきた主人公ラウル。しかし、低賃金の仕事にしか就けない彼は、その日暮らしの苦しい生活を余儀なくされています。

三日間。
ラウルがある事件を起こす決意をしてから実行するまでの葛藤、やり場のない怒りと苦しみ、逃げ場のない貧困が、彼の日常とともに描かれます。

何度となく映されるマニラの都市風景は、発展の象徴である高層ビル群と、その足下でうずくまるように並ぶスラム。
ラウルの心情は決して彼特有のものではなく、スラムの中にたくさん埋めいているだろうことは容易にわかります。
高層ビルはどこか蜃気楼のようにも見え、豊かな生活はどこにも見あたりません。彼らにとって、そんなものなど存在しないも同じなんです。

この「決意から実行までの三日間の葛藤」ですが、実はティーチインでレイモンド・レッド監督の話を聞くまでは気付きませんでした。
それを聞いて改めて映画を振り返ると、ギリギリのところで平常を保っていたラウルの精神の動き、とうとう一線を超えてしまったその時までが、確かに描かれていたのでした。
私は内容を追うのに精一杯でした。ストーリーを追いつつ、彼の心情も深く見ることができなかった自分の力量が悔しかったり……。

映像で印象に強く残ったのは、フィリピン社会の特に貧困層の実態、役人の腐敗ぶり、埃とゴミで汚れた町の姿です。

これらはもう一本のフィリピン映画『ばあさん』でも同様の描かれ方をしていました。

『ばあさん』は、老婆が幼い孫(殺された孫ではない)とともに強風とゴミが吹き荒れる町を歩くシーンから始まります。
すでにここから、貧しい彼らの生活が見え、これが『マニラ・スカイ』でも見た風景であることに気付きました。

孫を殺した犯人に思い罰を望む、被害者の祖母。
孫を救い出さんがために和解金集めに奔走する、加害者の祖母。

事件後の二人の生活が淡々と描かれていきますが、そこに見えるのは、やはり貧困なんです。役人のいい加減さも雨水で泥まみれになった汚い町もほとんど同じです。
しかし、老いと貧困と苦難と闘いながら、強かに生きる二人の老婆(なんと演じている女優さんは84歳と79歳!)の姿は、実に力強く、圧倒されるものでした。
こんなにも彼女達を取り巻く環境は酷いものなのに、彼女達からは悲壮感よりももっと違う別の力が感じられる。
苦しんでいる余裕さえもないと言えるのかもしれません。二人はただ、家族と生活を守るために生きていました。

※  ※  ※

二本の映画で描かれたフィリピン、マニラの実態。
それぞれの監督がフィリピンの実情を国内の、そして世界の人々に伝えたいという思いがあったことは、公式ガイドに書かれた監督メッセージからもわかります。
しかし彼らは、決して自分の主張を見る側に押しつけることなく、あくまでもマニラで生きる人々の生活、生き様を描くことに徹しています。
そこから見る者は何を感じるのか。

音楽のない世界は、町の音や彼らの息遣いをリアルに伝えてくれます。
南国のまばゆい青空、青い海? とんでもない。そこは開放感なんて言葉など忘れてしまうほどの、息苦しい社会でした。

全く救いようのない生活、にも見えますが、それでもその中にはささやかな幸せは存在しています。
『マニラ・スカイ』の場合は主人公ラウルの最悪の三日間しか描かれませんでしたが、作中二度映された農村の素朴な風景はとても美しいものでした。
彼はいつまでも家族の写真を大切にしていました。彼にとって、幸せな時間の多くは過去、つまり農村で家族と共に過ごした日々にしかなかったかもしれない。そのことが残念でなりません。

一方『ばあさん』の祖母二人は、マニラで孤独に生きていたラウルとは違い、家族に囲まれて生活しています。
もちろん生活は苦しく、「幸せ」と言ったって、ほんの少し笑えるひとときがある、といった程度です。
ですが、家族とともに生きていく二人の老婆の姿が孤独なラウル以上に力強く見えたのは、そういう小さな幸せと、支え合って生きる相手がいるお陰なのかな、と思いました。

もっとストイックに、見るのも辛いほどの苦しい物語を作ることも可能だったはずです。しかし作品の中には、見る側が束の間だけど安らげる時間(場面)も作られています。
その優しさ(と私は感じた)に、少しだけ救われた思いがしました。

『マニラ・スカイ』(原題:Manila Skies/Himpapawid)
2009年/フィリピン/98分
監 督:レイモンド・レッド
出演者:ラウル・アレリャーノ、ジョン・アルシリヤ、スー・プラド

『ばあさん』(原題:Lola/Lola)
2009年/フィリピン/110分
監 督:ブリリャンテ・メンドーサ
出演者:アニータ・リンダ、ラスティカ・カプリオ、ターニャ・ゴメス

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