『豆満江』~アジアフォーカス・福岡国際映画祭2010

8月に、北朝鮮の脱北者を描いた韓国映画『クロッシング』を鑑賞しました。
「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」でも脱北者を描いた作品が公開されると知り、絶対見に行こうと決めていました。中韓仏合作の『豆満江』です。

以下、ややネタバレ。

同じ脱北者をテーマにしているとはいえ、『豆満江』は内容も表現手法も『クロッシング』とは異なるアプローチで描いていました。
両作を比べるのは間違っているかもしれませんが、私の頭の中を整理するためでもあるのでご了承を。

まずは舞台。
『クロッシング』は北朝鮮から中国を経て韓国へ脱北する人々が描かれていました。さらに脱北者を取り巻く人権団体も出てきて、物語は大きく展開されるのですが、『豆満江』ではタイトルにもある豆満江という川を挟んで北朝鮮と隣接する、中国の朝鮮族の村が舞台であり、その小さな村で起こる悲劇を描いています。

また、表現手法も大きく違っていました。
『クロッシング』が娯楽映画的な演出を使用していたのに対し、『豆満江』は音楽も一切使わずに淡々と村の日常を描いていました。

『豆満江』は、冬になると凍る豆満江を渡って国境を越えてくる北朝鮮の少年と、彼と仲良くなった中国のある小さな村の少年との交流が物語の軸となっています。
子供に焦点が当てられているのは『クロッシング』と同じです。

主人公は12歳のチャンホという少年。彼は豆満江そばの朝鮮族の村で、祖父と言語障害の姉と三人で暮らしています。
ある日、チャンホは豆満江を渡って村へやってきた北朝鮮人の少年ジョンジンと友達になります。
病気の妹を助けるために危険を冒して川を渡ってきたジョンジンに、チャンホや彼の姉は食事を与えるようになり、交流を深めていきます。

『クロッシング』でもそうであったように、ここでもサッカーというスポーツが重要な役割を果たしています。
チャンホは村の仲間たちとサッカーを楽しんでいるのですが、ジョンジンもサッカーをやっていて、しかも彼はサッカーが得意なんです。そのことを知ったチャンホは、ジョンジンに隣村との次の試合に出てくれるよう頼み、ジョンジンは恩返しにと試合に出ることを約束します。

ところが、試合を迎える前に、チャンホたちの村で変化が起きます。
家畜の盗難など治安の悪化が目立つようになり、その原因は北朝鮮からやってくる脱北者たちだとして、北朝鮮人への反発が目立つようになるのです。
さらにチャンホの友人や、チャンホの家でも悲劇が起き、チャンホとジョンジンの仲も壊れかけていきます。

この村に住む朝鮮族も、かつては川を渡ってきた人たち。
「死ぬときは故郷に戻りたい」と川を渡ろうとする認知症の老婆や、夜中に助けを求めてきた脱北者を匿うチャンホの祖父、脱北の手伝いをするチャンホの友人の父親。
その心情は語られなくとも、心の奥深くに複雑な感情を抱えて国境で生きる人々の姿が、重くのしかかってきました。

北朝鮮の脱北者というと、同じ朝鮮人の国である韓国に逃げる人々が多いのかと勝手に思っていました。
これは完全に私の勉強不足で、中国との国境である北に逃げる人々、さらに中国にも朝鮮族という少数民族として生きる中国籍の朝鮮人が多くいることを、この作品で初めて知りました。

中国に逃げる脱北者、彼らと同じ言語を話しながらも違う国籍を持った中国の朝鮮族。
山間部の凍える寒さも見つめる山も川も変わりないのに。
日常の延長線上として描かれる悲劇に、やりきれない思いでした。

監督のチャン・リュルさんは彼自身も在中3世の朝鮮族だそうです(イメージエフより)。
ネットでいろいろと情報を探してみると、中国の朝鮮族を描いた作品を多く制作しているようです。
上映後にはティーチインがありましたが、有名な監督さんらしく、客席にはファンらしき方もたくさんおられるように感じました。

音楽や無駄な台詞を排除し、映像ですべてを語ると言うと言いすぎですが、映画とはやはり映像なのだと思わずにはいられない映像は、圧倒されるばかりでした。
彼の作品をまったく知らなかった私には、冒頭のロングショットからまずは驚きで。ワンカット、ワンシーンの多用、エンドロールの幻想的な映像にいたるまでが計算しつくされていて、鑑賞後は「映画を見た」という満足感でいっぱいになりました。
作品の内容自体は悲劇なのに、鑑賞後に興奮してしまったのは素晴らしい映像に出会えたという喜びからかもしれません。
チャン・リュル監督の名前はしっかりと覚えておきたいです(監督の名前で映画を見ることはないので、普段は覚えないんです←それでも映画ファンか!)。

ちなみに、この作品の登場人物は主役の少年二人と絵が得意な姉を演じた美術学校出身の女性を除き、ほとんどが実際に朝鮮族の村で暮らす素人の人たちだそうです。ティーチインでは、そのことで監督に質問された方がいました。
亡くなった老婆を弔うために村人たちが集まり、歌を歌うシーンがあったのですが、村人たちの演技が下手なので素人かと思った、と。
私もそのシーンは棒読みだと思ったのですが、変だとは感じませんでした。その質問者もそれがかえっていい味を出していたと、「次は素人っぽくならないように気をつける」と仰った監督に慌てて付け加えていました。

映画では俳優さんの演技もとても重要で、彼らの演技に感動や満足を得ることも多いですが、監督という立場からすると、自分の作りたいものを表現するのにプロの俳優は必ずしも必要ではなく、映画の手法にも様々な方法があるんだと、いろいろと考えさせられました。
映画祭では私が普段見る商業映画とは全く異なるアプローチをした作品が多かったので、とにかく発見と刺激がいっぱいでしたが、その中でも特にこの作品との出会いには喜びを感じずにはいられませんでした。

『豆満江(とまんこう)』(原題:Dooman River/???)
2010年/中国・韓国・フランス/92分
監 督:チャン・リュル
出演者:ツイ・ジェン、イン・ラン、リー・ジンリン

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