『不惑のアダージョ』~アジアフォーカス・福岡国際映画祭2010

「アジアフォーカス・福岡国際映画祭2010」最後に選んだ作品は日本映画『不惑のアダージョ』。
監督は井上都紀さん。
2008年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」にて、『大地を叩く女』でファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門でグランプリを受賞。その際に副賞として与えられた製作支援費によって作られたのが、この『不惑のアダージョ』です。

初めて参加したアジアフォーカス、『手のとどく限り』の衝撃から始まり、笑いに涙、戸惑いと様々な感情に揺れた9日間でした。最後に見た『不惑のアダージョ』はそんな私の興奮と感動に、静かに幕を下ろしてくれました。

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四十を迎え、更年期障害に悩み始める一人のシスターを主人公に、性と生を見つめ、さらに母と子の再生を描いた作品です。

更年期障害とかセックスとか、女性の性を女性が描くと聞くと、私は露骨で生々しい描写を思い浮かべてしまったのですが、この作品はそんなことはなく、性の問題を優しく、見守るように描いていました。
決して表面的ではなく、性に付随する本能や欲望といった面もきちんと描かれています。

あまり多くを語ってしまうにはもったいないので、簡単に。というのも、この作品は作品自体がそうであったように、不要な言葉は要らず、語ってしまうのも作品に対して申し訳ないような気がするんです。

技術的な面でよかった点を挙げると、まずは音楽の使い方。
賛美歌とバレエ音楽を、BGMとしてではなく、あくまでも必然的(教会で賛美歌を歌うシーンとバレエ教室でダンサーが踊っているシーン)に使いながら、かつシスターの内面を代弁させてしまう手法には感動しました。特にシスターが自転車で街中を疾走するシーン!
バレエのシーンで使用されていた曲はどうやら『白鳥の湖』らしいのですが(後で調べました)、このバレエシーンでのカメラワークがとても良かったです。
私はバレエはまったくの素人ですが、その私が「あ、バレエ見てみたい」とふっと惚れちゃうようなカメラワークでした。後から知ったのですが、井上監督はかつてバレエダンサーを目指していたそうで、だからこんなにバレエのシーンを美しく、楽しく描いたのかなと思いました。

この作品は英語でのタイトルが「Autmun Adagio」となっているように、物語が描かれる季節は秋です。
秋というと、切なさだったり、哀愁だったり、どこか物悲しいイメージのある季節ですが、この作品では日差しの温もりが効果的に使われ、スクリーンから優しさが満ち溢れ、見ている私にまで届くようでした。
この秋の描写は驚きでもありました。

主人公のシスターを演じた柴草玲さんは元々ミュージシャンで、井上監督の作品には何度か出演されているようなのですが、はっきり言って演技(台詞読み)はお上手ではありませんでした(笑)。
ただ、横顔が本当にきれいなんです。公式サイトの表紙の写真もそうなんですが、背景にそのまますっと溶け込んでいくような、そんな横顔。
この横顔さえあれば、という感じです。台詞の棒読みには、初めはどうなることかとびっくりしたのですが、すぐにどうでもよくなりました。
言葉で語れることはむしろ少ないことに気付かせてくれる、静かな演技でもありました。

この作品はそもそも台詞は多くありません。本当に登場人物たちに言わせたい言葉だけを選んでいたように感じました。
どの言葉にも深い意味があり、納得したり、ハッとしたり、救われたり。特にシスターが仲良くなった少女の一言には、多くの女性が救われるのではないかと思いました。

「母と子の再生」と書きましたが、この物語の中では少なくとも3組の母と子の関係が描かれます。
女性の性を語るときに切り離せないのが、出産です。男も女も女からしか産まれえません。
この作品を「女性に見て欲しい」と言われるのを何度も見かけましたが、私はそういう意味で、性別に関係なく見てほしいというか、見られる作品だと思いました。
誰もが「母」という女性から産まれていることに間違いはなく、女性との関わりは切っても切り離せないものだと思うんです。母親や妻や恋人、娘……様々な関係性があるでしょうけど、何かしら感じるものがあるのではないかと。

この作品が素晴らしいのは、女性賛歌だったり、女性の素晴らしさや苦悩を押し付けたりといった主張がないこと。一人の、不惑を迎えた女性の日常が静かに描かれています。
だから、女性向けとは言われますが、男性でも抵抗感なく見られると思うんです。
「性」は「生」でもあって、女性が主人公ではあるけど、男性たちの人生もちゃんと流れているんです。

「性」という過激でセンセーショナルで時に汚いものと捉えられ、しかし神聖なる一面も持つ問題が、こんなにも優しく温かく見守るように描かれていたことに、私は感銘を受けました。
鑑賞後に残ったのは嬉しさでした。「ありがとう」と伝えたくなった。
とても素晴らしい作品だと思います。

……なんだかんだで語ってしまいましたね(汗)。

『不惑のアダージョ』(Autumun Adagio) 作品の公式サイトはこちら
2009年/日本/70分
監 督:井上都紀
出演者:柴草 玲、西島千博

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