『シングルマン』

ファッションデザイナーとして知られるトム・フォードの初監督作品。
長年連れ添った年下の恋人を失った一人の中年男性の、ある一日を描いています。
冬のしんとした空気のように、痛いほどに張り詰め、研ぎ澄まされた美しさに溜め息が出ます。

※  ※  ※

ストーリーはシネマ・トゥデイより

1962年11月30日。8か月前に愛する人を失ったジョージ(コリン・ファース)は、この日で人生を終わらせようと、死の準備を着々と整えていた。ところが大学での講義は熱を帯び、いつもならうっとうしい隣の少女との会話に喜びを抱く。そして遺書を書き上げたジョージに、かつての恋人チャーリー(ジュリアン・ムーア)から電話が入り……。

ジョージの現在と過去とが糸を紡ぐように、美しく描かれています。
視覚的な美しさばかりにとらわれてしまいがちですが、音楽や台詞、あらゆるところに監督のセンスを感じ、それはもう圧倒されるばかりです。
そのセンスは、彼がデザイナーであるからなのか、彼がゲイであるからなのか、はたまたその両方なのか。
付け入る隙を与えない・許さない、監督のこだわりと自信、強さが感じられました。

正直に言うと、この映画を語るには、私にはあまりにも無謀であると感じています。
この映画は「大人の映画」だと思いました。ただ年齢や経験を重ねただけではない、成熟した大人の。
それが何歳であるとか、どんな人であるとか、私にはわかりません。
ただ、これは今の私向きではない、と。
この映画には感じるものがたくさんあるのに、その存在がわかるだけで、私はそれらを心でも体でも深く感じることが出来ず、見ながらもどかしさを感じていました。

たとえば、主人公ジョージと彼の昔馴染みの友人(元恋人でもある)チャーリーが、彼女の家で語らうシーン。
二人の間に流れてきた時間の多くは語られませんが、確かな信頼と、どうしても超えられない壁が存在していることはわかります。そして二人は、固く結ばれた絆も持っている。
そんな二人の語らい、ダンス、笑いの間に漂う空気が、私にはどうしても掴めないんです。
そこに何かが存在していることはわかるのに、掴もうと手を伸ばすと、するりと逃げていく。

見ていて、とてももどかしかったです。
「あなたにはまだ早いよ」と言われているようでもあったし、「きっとわからないわ」と言われているようでもありました。
もう一度、もう何度でも、このシーンを見たい、と思いました。
きっと何度見ても違う感動を味わうことができるだろうと、そんな予感がしました。
私が本当に心から感動できる日が来るかは、わかりませんが。。

理屈で考えようとする作品ではないと思います。しかし、それでいて言葉はしっかりと意味を持っていました。
特に私が忘れられないのが、先に書いた二人が語らうシーンでジョージが言った、

「女として不幸なら、女を捨てろ」

という台詞です。
私はこの言葉を表面的にしか受け取れていないけど、これを聞いて救われた思いがしました(何からかはわからない)。
そして、この映画を見てよかったと思いました。

うまく伝えられないことが本当に悔しいのだけど、それが今の私の限界でもあるのかなと。いろんな意味で。

ジョージが惹かれる男性が、目を疑ってしまうほど美しいです。顔も、肉体も。
美しすぎるだろう、というほどに。
女として嫉妬しました、彼らの美しさに。女は男には勝てないな、とも思いました。

映画監督として以外のトム・フォードや、ゲイの社会について知識がおありの方は、もっといろんなことを感じることができるかと思います。
私は残念ながら両方ともあまり詳しくないので……。
それでも、映画として十分堪能できる作品です。

『シングルマン』 (英題:A SINGLE MAN) 公式サイト
2009年/アメリカ/1時間41分
監督・脚本・製作: トム・フォード
原作:クリストファー・イシャーウッド
脚本:デヴィッド・スケアス
製作:クリス・ワイツ / アンドリュー・ミアノ / ロバート・サレルノ
撮影:エドゥアルド・グラウ
音楽:アベエル・コジェニオウスキ
追加音楽: 梅林茂
キャスト:コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、マシュー・グード、ニコラス・ホルト、ジョン・コルタジャレナ他

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