『再会の食卓』

4月に鑑賞した映画は3本だけだったので、まとめて感想を書くつもりだったのですが、1本目の『再会の食卓』の感想を書いていたら長くなってしまったので、分けました。
残りの2本についてはまた書きます。

ネタバレ(と言うほどのものでもないですが)あり。

※  ※  ※

中国と台湾の戦争により生き別れたかつての夫が40年ぶりに現れたことによって揺れ動く老齢の男女3人とその家族を描いています。

すでに新しい夫・シャンミンと家庭を築き、可愛い孫にも恵まれ、つつましく生きているヒロイン・ユィアー。
若かりし頃に一年だけ夫婦生活を共にした元夫・イェンションが現れ、家族と愛との間で揺れ動きます。

過去と現在。中国と台湾。共産党と国民党(夫2人はかつて敵同士だった)。家族と個人。

いろんなことが対比されていて、どちらがいいのか、どうすればいいのか、と生き方を模索する登場人物たちの姿に考えさせられます。
中国と台湾の歴史関係を知っていればまた違った視点というか、より深く楽しめたと思います。そのあたり勉強不足だったのが残念。。

タイトルに「食卓」とあるように、この作品は食卓がキーポイントとなっています。
楽しく食事をする場面もあれば、喧嘩が始まることもあり、酒を飲み和解しあったり、寂しさを食で紛らわしたり……と、テーブルを囲む場面が何度も出てきます。
私が一番好きな食卓は、ヒロインと夫2人の3人で酒を飲み、歌いあう場面です。
夫2人はかつてそれぞれ共産党と国民党の兵士で敵同士でした。しかし、酒を飲んで当時の苦労を互いに労い、当時流行った歌を3人で一緒になって歌うその場面では、わだかまりも3人の複雑な関係も消え、場所は違えどこの長い時を共に生きてきたという絆のようなものが生まれていました。
この場面を見て、「歌の力」とはこういうものなんだなあと思いました。
あと、お酒も(笑)。
この作品では本音を引き出す手段としてお酒が使われていましたが、それが良いほうに転じたときに、3人の関係を繋ぎました。
歌は彼らに同じ青春を呼び起こさせ、そしてその舞台を作ったのが食事でした。

みんなで食事をする、楽しい時だけでなく、どんな時でも食卓を囲むこと。お互いの顔が見えるように、話を聞けるように。
食卓の重要性を描き、ラストも食卓で終わっています。
それはいかにも現代を象徴するような寂しいもので、街や時代の変化のように一変してしまった家族の姿は、現代を生きる私たちに家族のあり方を問い掛けているようでした。

元夫が40年ぶりにかつての妻のもとへ帰ってくるというドロドロな物語ですが、あくまでも客観的に淡々と描かれています。
誰か一人に感情移入するということはなく、場面場面で伝わってくるそれぞれの思いに、どうしようもないはがゆさを感じました。何が正しいかわからないままに迫られる決断の重さがずっしりとのしかかってきます。

こうして作品を振り返ってみると、「あれも良かったな、これも良かったな」といろいろ思い浮かぶのですが、作品を見終わって強く印象に残っていたのはやはり「食事と歌とお酒」でした。
お酒に任せなければ本音を言えない現夫シャンミンの哀しさと優しさが、胸に染みます。

『再会の食卓 (英題:APART TOGETHER)』 (2010年/中国/1時間36分) 公式サイト
監督・脚本: ワン・チュアンアン
脚本: ナ・ジン
キャスト:リン・フェン、リサ・ルー、シュー・ツァイゲン、モニカ・モー 他

※4月20日、ソラリアシネマで鑑賞。

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