アジアフォーカス・福岡国際映画祭2013(1)~東南アジア編

9月13日から23日にかけて行われた、第23回アジアフォーカス・福岡国際映画祭
4回目の参加となる今年も、社会派ドラマから上質なエンタメ作品まで、さまざまなジャンルのアジア映画を堪能することができました。
ちょっと遅いですが、鑑賞した全作品の感想を書きます。今回は地域別に分けてみました。3回くらいに分けて書きます。
まずは、鑑賞本数の多かった東南アジアの作品から。※ネタバレあり。

※  ※  ※

( )内の★は個人的満足度。5点満点です。観客賞に投票した作品は、投票した点数を書いています。

『聖なる踊子』(★★★★★) ※観客賞投票
英題:The Dancer
制作年/制作国:2010年/インドネシア・フランス
監督:イファ・イスファンシャ

1960年代のインドネシア・ジャワ島の村を舞台に、伝統芸能ロンゲンの踊り子を目指す少女と幼馴染の少年の悲恋を描いた作品。
小さな村で、村人の羨望の的となる華やかな踊子に憧れるスリンティル。幼いころから夢を追いかけ、ついに新しい踊子となりますが、そこには子供の頃には知ることのなかった辛い現実も待っていました。踊子は、踊りだけではなく、高級娼婦のような役割も果たさなければならなかったのです。
毎晩のように村の男性の相手をするスリンティル。恋人のラススは当然そのことをよく思っているはずもなく、何度も彼女をやめさせようとしますが、スリンティルは踊子の道を選びます。傷心のラススは、村を出る決意をし、軍隊に入ることに。

ここから物語は、2人の恋物語の枠を超え、政治闘争で混乱するインドネシア現代史の悲劇も描きます。
1965年9月30日、インドネシア現代史の転機とされる「9・30事件」が起きます。台頭する共産党勢力が起こしたクーデター未遂事件に対し、国軍による悲惨な共産党掃討作戦が行われたのです。現在でもその事件の真相は闇の中とされているそうで、この作品でも詳細には描かれていません。
実は、共産党の勢いはスリンティルたちの村まで及んでいました。共産党員たちは足しげく村に通い、字も読めない無知な村人たちにつけ込み、彼らを共産党へ引き入れようとしていたのです。
共産主義の村として国軍から目をつけられた村人たち。彼らは自分たちの身に何が起きているのか、その理由もわからないまま、ほとんどが軍に捕まってしまいます。
軍隊にいながらも、村のこと、スリンティルのことが忘れられないラスス。彼は周囲の反対を押し切って、一人、スリンティルを探しに行きます。そしてついに、収容所でスリンティルとの再会を果たしますが・・・。

古くから伝わる村の因習だけでなく、現代の政治闘争にも阻まれ、ついに叶うことのなかった2人の恋。若い2人の美しい愛を軸に、インドネシアの文化・歴史も描いた、想像以上に見ごたえのある作品でした。
事件から10年後、それぞれ兵士として、踊子として生きる2人は再び再会します。しかし、2人は言葉を交わすことはなく、別れます。
死ぬまで踊子として生きる決意をした彼女が、晴れ渡る青空の下で踊り去っていくラストシーン。2人の波乱の恋に終わりを告げたラストは、あまりにも美しく、哀しく、涙なしには見られませんでした。
今年のアジアフォーカス、私的ベスト1です。

『ティモール島アタンブア39℃』(★★★★) ※観客賞投票
英題:Atambua 39°Celsius
制作年/制作国:2012年/インドネシア
監督:リリ・リザ

『虹の兵士たち』『夢追いかけて』などの爽やかな青春映画で、アジアフォーカスでも人気のあるリリ・リザ監督の作品。
東ティモールと隣接するインドネシアの国境の町アタンブア。紛争時に東ティモールから逃げのびてきた人々が多く住むこの町を舞台に、貧困の中で様々な苦悩と悲しみを胸に秘め生きる人々の姿を描きます。

言葉よりも映像で語る作品。台詞が少なく、登場人物の関係性などを把握するのに苦労しました。
監督がアタンブアを訪れた際に、地元の人々に聞いた様々な話をベースに作られたようで、上映後のQ&Aでの監督の話によると、主人公ジョアオの父・ロナルドもモデルがいるよう。俳優も地元の方で、言葉も東ティモールで多く話されているというテトゥン語が使われています。東ティモールの悲劇を題材にした映画というよりは、そこに住む人々の姿をできるだけありのままに伝えようとしたドキュメンタリーのような感じです。
舞台となるアタンブア、隣町クパンの自然、町、人々の姿を丁寧に映し出した映像は素晴らしいとしか言いようがありません。映画祭のガイドブックで監督は「(アタンブアは)伝統と近代化、発展と貧困、困難と美がぶつかりあう場所」と語っていますが、アタンブアのその姿を見事に映像で表現されていました。自然の美しさにはただただ溜息。

正直、東ティモールやインドネシアの歴史・文化についてそれなりの知識がないとわからない部分ばかりで、鑑賞していて戸惑うことも多かったです。しかし、紛争により深い傷を負った人々の苦しみや悲しみは伝わってきます。
故郷東ティモールを離れてアタンブアへとやってきたものの、結局ティモールに帰ったロナルドやジョアオの故郷・家族に対する思いも、難民キャンプで体と心に受けた深い傷を癒せぬまま、故郷を離れ、安住できる地を求めて一人さまよう少女ニキーアの思いも、静かながらも深く、強く、心に響きます。

リリ・リザ監督の作品で私が見たのは『夢追いかけて』だけなんですが、これがとても素晴らしくて忘れられなくて、今年も彼の作品が招待されるということを知り、楽しみにしていました。『夢追いかけて』のような作品をまた見たいなあと思っていたところ、この作品でしたので驚きはしましたが、このような作品もいいですね。。才能ある方なんだなあと思いました。次回作もぜひ福岡で見たいです。

この作品をインドネシア本国で鑑賞された方が、感想や作品の背景などについて書かれたツイートをまとめています。参考になるので、興味のある方はご覧ください。こちら
(私の感想ツイートもこっそりまとめられてます)

『タクシードライバー日誌』(★★★★) ※観客賞投票
英題:Something in the Way
制作年/制作国:2013年/インドネシア
監督:テディ・スルヤットマジャ

ジャカルタでタクシー運転手をしながら、孤独に生きる若い男の悲劇を描いた作品。夜のジャカルタの危うい美しさを背景に、孤独に生きる主人公が狂気へと向かう姿を描きます。

主人公を演じる俳優さんはイケメン。これは意図的なんでしょうか?
主人公はAV鑑賞が趣味で、家にいる時はほとんどAVを鑑賞しながら自慰に耽っています。これがイケメンでなければ、作品の印象は変わっていたと思うのですが、どうでしょう。個人的には、あえてイケメンの俳優さんを選んだのではないかと思ってるのですが・・・(考えすぎかな?)。

そうそう、自慰のシーンがほんとに多かったです。正直、中盤あたりにはうんざりしてしまいました。ただ、それらのシーンも彼の孤独と病的な一面を強調していたわけで、そのことに気付いてからは何とか受け止められるようにはなりました。
そんな性的にも偏った一面を持つ主人公が、同じアパートに住む売春婦の女性に恋をします。はじめは主人公の一方的な恋でしたが、彼の好意に気付いた彼女も次第に彼に心を開くようになり、二人の距離は急激に近づきます。
つまらなかった日々が輝き始め、それまで怠けていた仕事にも精を出すようになる主人公。ところがある日、彼女が仕事中に危険な目にあいます。その事件をきかっけに、主人公は売春婦の仕事をやめさせようとしますが・・・。

主人公がAV以外に心の拠り所としているのが、宗教。彼は敬虔なムスリムで、仕事以外にはAV鑑賞をするかモスクにいるかのどちらかです。愛しい彼女を救う(売春婦をやめさせる)ために、彼は狂気に走るのですが、その最後の引き金を引いたのが宗教というのが興味深かったです。

家族も友人もいない。都会の片隅で孤独に生きる若者が、初めて?恋をして、それまでの退屈な日々が一変。人生に光が差し込みます。しかしそれも、長くは続きませんでした。一瞬輝いたかに見えた主人公の人生は、最後は誰にも知られることなく静かに消えていきます。
孤独に生きる哀しみと恐怖を感じずにはいられませんでした。

『果てしなき鎖』(★★★★)
英題:Shackled
制作年/制作国:2012年/フィリピン
監督:ローレンス・ファハルド

フィリピンの警察内部の腐敗ぶりを描いた社会派ドラマ。マニラの雑踏を舞台に、一人のスリが大きな腐敗の渦へと巻き込まれる過程を淡々と描きます。
監督は、昨年のアジアフォーカスで話題となった『アモク』のローレンス・ファハルド。2年続けての登場です(来年もぜひ福岡に!!)。
今作も昨年の『アモク』同様、マニラの日常風景を秀逸なカメラワークで映し出し、冒頭から観客をひきつけて離しません。人々と貧困と犯罪と。すべてを抱え込むマニラの雑踏から人々のちょっとした表情・セリフまで、隙がないんですよねえ。すごい。

主人公は、盗みで家族の生活を支える青年ジェス。ある日いつものようにスリをして、(彼にとって)運悪く警察に捕まってしまったことから、彼の運命は大きく狂っていきます。
警察署内で圧倒的な力を持つ警部に目を付けられたジェスは、尋問で暴力を受け、無駄に時間のかかる手続きで長時間拘束され、連れまわされた挙句、警部の「不正の現場」に連れて行かれます。「犯罪者」として弱い立場にある彼は警部の前になすすべなく、不正の「共犯者」として生き続けることを強いられます。

狡猾な警部は、加害者だけでなく、被害者も選んでいます。自分の利益になりそうな者だと判断したら、逃しません。しかし、その態度はまるで違います。
立場の弱い者には暴力で恐怖を植え付け、とことんお金を毟り取り、自分より強い者にはいい顔をする。決して強い者からお金は受け取らないのがポイント。謝意としてお金を差し出されても、「当然のことをしただけです」と笑顔で受け取りを拒否します。そうやって信頼を得る。金持ちにとっては、いい警察なんですね。
金銭を受け取らないのはもちろん当然のことなんですけどね・・・。表と裏でこれだけ顔を変えることに恐怖を覚えました。警部役の俳優さんがまた素晴らしいんです。スキンヘッドの強面なんですが、頼もしさと、どこか危険な魅力を兼ね備えていて。完全な悪役顔ではないんですね。ずるいなあ、と思いました。絶妙な配役です。

一連の出来事は、たった1日の話。特別でも何でもない、日常の出来事として、スリも警察の暴力も殺人も描かれています。
社会が抱える様々な問題を冷静に見つめ、浮き彫りにした秀作です。

『シンガポール・グラフィティ』(★★★★) ※観客賞投票
英題:That Girl in Pinafore
制作年/制作国:2013年/シンガポール
監督:ツァイ・ユィウェイ

1990年代初頭のシンガポールを舞台に、将来に不安を抱きながらも恋に音楽に、今をめいっぱい生きる若者たちの物語・・・ですが、1980年代から90年代初頭にかけて国民に愛された、シンガポールの中国語歌謡曲「新謡」が陰の主人公。
小さい国で「人が資源」として教育に力を入れるシンガポール。英語重視の教育が進み、正しい北京語が話せない若者が増える中、1980年代から90年代にかけて、中国語による歌謡曲「新謡」という音楽運動が起きたのでした。そんな「新謡」を愛する若者たちの友情・恋愛、そして成長の物語。魅力的なキャラクターに加え、笑いあり・涙あり・そして音楽あり、と最初から最後まで楽しめます。(「新謡」は日本人にも親しみやすいメロディで、音楽だけでも充分楽しめるくらいです。)

その中で、「経済発展」を突き進むシンガポールで生きることに戸惑う彼らの姿も描かれています。多民族国家であり、都市国家であるシンガポールの複雑な事情が見え、ただの青春映画では終わらない、興味深い作品でした。
作品の雰囲気が台湾映画とちょっと似ていて、心地よく鑑賞できました。最初に流れた新謡に「日本に爆撃されて~」という歌詞が出てきた時にはドキッとしましたけど・・・。

『Pee Mak』(★★★)
英題:Pee Mak
制作年/制作国:2013年/タイ
監督:バンジョン・ピサンタナクーン

タイで大ヒットし、興行収入記録を塗り替えたというホラー・コメディ(純愛系)。夫の徴兵中に亡くなった身重の妻が、夫が恋しいあまり幽霊になって出るという、タイで有名な怪談「メー・ナーク」を大胆にアレンジしています。

監督の話によると、もともとはタイで人気のある『4B1A』『フォビア2』という作品に出てくるキャラクター4人組を使った作品を作りたかったとのこと。本作では、その4人組は主人公マークの仲間として登場。ぶっとんだ髪型とおバカだけど憎めない面白キャラで、ホラーながら「笑える」「泣ける」この作品を支えています。
しかし、私はその4人組よりも、主人公マークに惹かれました。4人組以上にどうしようもないおバカさんなんですが、そのピュアさに癒されました。村人から「妻は幽霊だ」とハブられようとも、妻を信じ、愛し続けるマーク。「なんで気付かないんだよ!」なんて突っ込みたくもなるのですが、ひたすらに妻を愛し続ける姿に素直に感動しました。特に終盤の愛の告白はとっても良くて、涙でスクリーンがぼんやり・・・。
この告白がすべてと言ってもよくて、正直、この告白とマークを見事に演じきった俳優の魅力がなければ、ここまでいい印象は持てなかったようにも思うんですね。笑えるホラーというところがウリなんですが、「愛」こそがこの作品の本当のテーマなんじゃないかと勝手に思っています。

上映後のQ&Aでは、こういったローカルな作品を外国で上映する際の難しさについて監督からお話がありました。
冒頭でさまざまなハリウッド映画のタイトルが出てくるのですが、それについて「監督の好きな作品ですか?」との質問がありました。実際に俳優がしゃべっているのはハリウッド作品ではなく、タイで著名な作品らしいのですが、外国の人にはわからないので、字幕では内容が似ているハリウッド作品のタイトルを使用したということでした。他にも、タイ語を知らないと理解できないギャグや言い回しなども結構あり、それについての解説もしてくださいました。
小説もそうですけど、外国の作品はやはり翻訳だけではわからない部分はどうしてもありますよね。それでも面白いから、読んだり見たりするわけですが、「わかればもっと面白いのに」と悔しくもなります・・・(勉強しよう!)。
監督は映画祭最終日まで福岡に残り、Q&Aに参加されていました。どうやら日本での配給も決まっているようです。上映の規模はわかりませんが、中韓台印だけでなく、いろいろなアジアの作品が見られる機会が増えるのはいいことですね。

※  ※  ※

東南アジアの作品は、インドネシア3本、フィリピン・シンガポール・タイが各1本の計6本でした。
個人的な好みなんですが、地域で言うと、東南から南にかけての作品が好きです。海と緑のある風景が、やっぱり好きなんですね。ホッとするというか、落ち着くというか。
そういう意味で、『ティモール島アタンブア39℃』の映像はたまらなかったです。心が洗われるような美しさでした。自然の美しさは、かの地で苦しむ人々にとっても救いとなっているのでしょうか。。。
それから、(個人的に)今まではずれがなく、密かに楽しみにしていたフィリピンは、今年は1本しか招待されていなくて残念でした。来年はまた2本くらい招待されるといいなあ。

感想第1弾はここまで。第2弾も近々アップします。

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