ドラマ『市長死す』

2012年4月にフジテレビで「松本清張没後20年特別企画」として放映された、ドラマ『市長死す』。再放送を見ました。
(ネタバレあり)

※  ※  ※

このドラマ、何度か再放送されていて、見るのは2回目か3回目だと思います。主演の反町隆史を始め、俳優の演技が光るいいドラマです。

松本清張原作の同名小説のドラマ化。
主人公は、花屋を営みながら市議会議員としても活躍する笠木(反町隆史)。ある日、彼の伯父でもある市長(イッセー尾形)が公務中に突然姿を消し、数日後にある温泉で遺体となって発見されます。
まじめ一辺倒の伯父が公務をすっぽかし、何日間も会議を無断欠席したあげく、見知らぬ土地で死んだことに不信感を持った笠木は、伯父の家政婦・スミ子(倍賞美津子)や、市長秘書の矢崎(春海四方)とともに、死の真相に迫ります。

伯父の死の真相に迫る中でキーとなるのが、伯父が長年つけていた日記です。日記には、信頼を裏切ったかつての部下・山下への恨みや、妻を亡くした後出会った一人の若い女性・芳子への恋心など、笠木が知らなかった伯父の一面が赤裸々につづられており、その2人が伯父の死の真相を握っているのではないかと笠木は考え、2人を探します。
彼の予想は当たっており、伯父に直接手を下したのは山下(石黒賢)、それをそそのかしたのが芳子(木村多江)、という結末でした。

ドラマの終盤は芳子の性悪ぶりがクローズアップされ、結局伯父も山下も芳子にまんまと騙されただけだった、という男の哀しさと女の悪さが強調されて、物語は終わります。しかし、私はこの物語において、芳子(悪女)はあまり重要ではないと感じました。
やはり主人公は笠木であり、彼と伯父との関係が、私には強く印象に残ったんです。

伯父を演じたのはイッセー尾形。彼の演技が素晴らしく、「堅物」「真面目」「潔癖」、そしてちょっと「変わり者」という市長を見事に演じきっていました。ちょっとした表情から歩き方まで、「真面目」が行き過ぎて「変人」になってしまっている人物の特徴がよく出ているんですね。最後に芳子が「気持ち悪い」と呟くんですが、まさにその言葉と結びつく演技でした。
そして、芳子への思いも、異常さを感じさせるほどでした。行きつけの料亭で親切にしてくれた店員の芳子に恋心を抱き、彼女への想いと彼女を連れて逃げた山下への恨みを12年間も募らせ続けます。そして、12年ぶりに再会した彼女に「戻ってきてくれ」、山下に「芳子を返してくれ」と頓珍漢なことを言ってしまうほどなんです。
その伯父の「気持ち悪さ」を和らげていたのが、甥である笠木の存在です。

笠木は幼いころに両親を亡くし、伯父夫婦に育てられます。伯父は彼を大切に育て、彼もまた伯父を父のように慕い、伯父の背中を追うように、市議会議員になっています。
伯父の死の真相を追う中で、伯父の「老いらくの恋」、それも12年間一方的に思い続けるという、ちょっと「痛い」伯父の一面を知ります。
真面目が取り柄で、自分の成長を優しく見つめ続けてきてくれた伯父の、まさかの一面に、笠木もショックを受けたと思います。それでも彼は伯父に嫌悪感を抱くこともなく、自分にとっての「伯父」の姿を信じ、伯父の無念をはらすために、真相を追い続けます。

伯父の事件は最終的に、山下が単独犯として捕まり、幕を下ろします。しかし、笠木はその後、真実を確かめに芳子に会いに行きます。そして、山下が伯父を殺すように仕向けたのは芳子ではないのかと、思いをぶつけます。
私も、真実は笠木の言う通りだったのだろうと思います。でもそれを証明することはできないし、芳子も当然はぐらかします。
ただ、この時笠木が本当に確認したかったのは、事件の真相ではなく、芳子の伯父に対する思いだったのではないかと思います。
彼は最後に、立ち去る芳子に聞きます。
「伯父を愛していましたか?」
笠木は、伯父の思いが一方的ではなかったと信じたかったのではないでしょうか。伯父は「哀しい男」ではなかったと。何より、伯父の「男」としての面目を保ちたかった。その思いが、笠木の最後の言葉、目に涙をためた彼が放ったこの言葉に強く表れていました。
その彼の思いはあっさりと砕かれるわけですが…。
(芳子はただ一言、「気持ち悪い」と残して、立ち去ります。この「気持ち悪い」は、伯父だけでなく、笠木に対しても言ったのだろうと思います。笠木の伯父に対する思いを、芳子は理解できなかったんでしょう)

伯父の無念さに号泣する笠木の姿や、何度も流れる伯父との思い出の回想シーンで、笠木の伯父に対する思い、そして伯父の笠木に対する思いが強く印象に残ります。
「老いらくの恋」の結末は哀しいものでしたが、甥との関係は良好で素晴らしいものであり、未来を託せる若者を、伯父は立派に育て上げました。
伯父の死の真相に迫る、というミステリーの中で浮かび上がったのは、この2人の絆でした。そこには男女の生々しい愛憎劇などはなく、ただ美しい風景が広がっていて、私はそこに感動を覚えたのでした。

この2人の物語を支えたのは、伯父役のイッセー尾形はもちろん、笠木を演じた反町隆史の好演もあるかと思います。
反町演じる笠木は、まさに誠実さと正義感を持つ好青年。裏の顔があるようにも見えません。こういう人が立候補したら、投票しちゃいますもん(笑)。反町隆史はいい感じで年を重ねてるなあ、とつくづく思いました。
また、真相追及に没頭する笠木を支えていた妻や、伯父の家政婦のスミ子の存在も見逃せません。妻を演じた白石美帆も、良かったですね。こういうチョイ役を違和感なく演じるのも難しいのではないかと思いますが、出過ぎることもなく埋もれることもなく、いい存在感を放っていました。

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以前、同じように再放送で見たドラマ『法の庭』の感想を書いたことがあるのですが、休日の昼間に再放送しているドラマもたまに見ると、いい作品に出会えますね。このドラマも、感想を書かずにはいられないものがありました。
原作も読んでみたいですが、原作はドラマよりドロドロしてそうですね…。

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