池田理代子『ベルサイユのばら』

ベルサイユのばら [文庫コミック] (1-5巻セット 全巻) [コミック] by 池田 理代子 [コミック] by 池田 理代子 [コミック] by 池田...

舞台は18世紀フランス。激動の歴史の中で、愛に、青春に、使命に燃え、激しく生き抜いた若者たちの姿を描いた名作です。

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私が生まれる10年前の1972年から73年にかけて、『週刊マーガレット』で連載された『ベルサイユのばら』。連載から40年経ってもなおその魅力は色あせることなく、愛され続けている作品です。
先日、たまたまBSで宝塚の『ベルサイユのばら』が放送されていたのを見て、読みたくなったので再読。作画やセリフの流れるような美しさに溜息、そしてドラマチックな物語に心を揺さぶられました。

主人公は言わずと知れた「男装の麗人」オスカル。オスカルの幼馴染アンドレ、フランス・ブルボン朝最後の王ルイ16世のもとに嫁いだマリー・アントワネット、アントワネットとの禁じられた愛に身を滅ぼすスウェーデン軍人フェルゼン。この4人を軸に、アントワネットがルイ16世に嫁いでからフランス革命で処刑されるまでを描いています。

再読して印象に残ったのは、この物語で描かれる様々な「愛」の形です。
光と影として寄り添うオスカルとアンドレの関係、オスカルとアントワネットの主従関係、アントワネットとフェルゼンの禁じられた愛、アントワネットとルイ16世の夫婦愛。そして、さまざまな家族愛やオスカルに思いを寄せる少女たちの「恋心」、それから幾つかの失恋も描かれます。それら一つ一つが胸に迫り、読む者の心を揺さぶります。
魅力的なキャラクターばかりなので、どの人物にも感情移入してしまいそうなくらいで、読みながら自分の中にもさまざまな感情が押し寄せてきます。

そして、オスカルのセクシュアリティ。これは、再読して気付きました(正確には解説で…)。
「男」と「女」の間で苦しむオスカルの心や、「男装の麗人」である彼女がなぜこんなにも魅力的なのか。(オスカルのセクシュアリティについては、4巻の松本侑子氏の解説に詳しく、全文を引用したいくらいなんですが…)

「男」として育てられたオスカルは、そのことで周囲からも特異な目で見られ、「男」と「女」の間で揺れ動きます。年を重ねるごとに、そのことが彼女を苦しめるようになり、「自分の人生とは」「女としての幸せとは」「自分の幸せとは」と悩み続けます。
女として――
この言葉に苦しんだ経験のある人なら、たとえオスカルのように男装の麗人ではなくても、彼女の苦しみに共感する部分があるのではないかと思います。(特に「結婚」については…)

4巻で解説を書かれた松本氏は、「多くの映画や童話、文学で、普通の女性が自由に考え、自由に行動すると不幸な結末をもたらす」と語ります。男性であれば、「勇敢」と讃えられる行為も、女性であれば「女らしくない」と非難される、と。
実際にオスカルも「女のくせに」と部下から反発されたりしますが、彼女が他の女性キャラと比べて比較的自由に考え、自由に行動できたのは、「普通の女性」ではなく、「男装の麗人」だったから。「男」として育てられたからこそ得られた自由(思考の柔軟さなども含め)なんですね。
松本氏はまた、オスカルは女臭さからも男臭さからも解放され、「男らしさ」「女らしさ」という造られたジェンダーの利点だけを組み合わせている、と言います。オスカルは「男」と「女」の間で苦しみましたが、それは逆に男でもあり、女でもある(あるいは男でもなく女でもなく?)、ということで、両方の性から自由であったとも言えるのかもしれません。

興味深かったのは、オスカルに思いを寄せるロザリーやシャルロットなど少女たちの存在です。
彼女たちはオスカルを女性として見る前に、オスカルの容姿や振る舞い、優しさなどに惹かれ、恋をします。オスカル自身は「私は女だ」と少女たちを拒みますが、少女たちはたとえ拒まれても、やはりオスカルを慕い続けます。
これは少女たちが性の問題をまだ意識できない、ということだと思いますが、彼女たちがオスカルを性別関係なく一人の人間として慕っているということでもあり、オスカルの魅力を端的に表したエピソードではないかと思います。

少女時代に憧れる「オスカル」の魅力と、年を重ねて気付く「オスカル」の苦しみ。
エンタメとしての面白さも十分にありながら、実は奥の深い物語であったことに、何年振りかの再読によって気付きました。
ほとんど徹夜で読みました。何度読んでも興奮しますし、またテンポがよいので、ページをめくる手を簡単に止められないんですね。これから先何年か後に読んでも、それは変わらないでしょう。

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私が所持しているのはトップの画像にもある「集英社文庫」です(画像リンク先のアマゾンでは何故か「完全版」についてのレビューも掲載されていますが、この文庫版とは内容が違うのでご注意を)。これは約20年前の1994年に発売されたもので、各巻には著名人による解説が掲載されています。
4巻は上記のように松本侑子氏、1巻は林真理子氏で、彼女も松本氏のようにオスカルのセクシュアリティについて触れています。2巻は内館牧子氏、3巻は氷室冴子氏、5巻が奥本大三郎氏です。
ほとんどが女性という点がやはり興味深いです(奥本氏はフランス文学者で、彼の解説は他の4人とは違い、アントワネットやルイ16世の人生について書かれています)。

『ベルばら』はこの文庫版に限らず、21世紀に入ってからも「完全版」や「愛蔵版」などが発売されています。この作品が社会にどれほどの影響を与えたのかが、そのことからもよくわかります。社会学的観点からもいろいろと論じられているようなので、そういった文もいつか読んでみたいです。

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