全日本フィギュア・男子シングル(2013-2014)

来年2月に開催されるソチ五輪。五輪競技の中で特に楽しみにしているフィギュアスケートの熾烈な代表争いにも、終止符が打たれようとしています。

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今や日本人選手の中で金メダルに一番近い羽生選手の圧倒的優勝で終わった全日本フィギュアスケート選手権の男子シングルは、一つの時代が終わる予感を感じさせるものでした。
大会前から代表はほぼ確定していた羽生選手の演技にはあまり興味はなく(ごめんよ)、今大会が最後のスケートになるかもしれないベテラン2人と、彼らの代表入りを大きく左右する(彼らよりちょっとだけ)若い2人の演技に注目していました。

昨日行われたFS。ベテランの高橋選手、織田選手が見せた演技は対象的なものでした。大きなミスなく最後は笑顔で滑り切った織田選手。ジャンプでミスを繰り返し、出血で手のひらを赤く染め、演技直後は放心した表情で遠くを見つめていた高橋選手。
しかし、2人の演技から感じられたものは同じでした。
それは、「覚悟」です。
ここ何年もの間、黄金期の日本フィギュア界で先頭に立ち、切磋琢磨し、闘ってきた2人が、自身の「最後」を意識しながら滑っていた。そのように思えて仕方ありませんでした。

滑走順は、織田選手、高橋選手の順番でした。
私が気になったのは、会心の演技をし、高得点を叩き出した織田選手が、キスアンドクライの席を立った場面。
目に涙を溜めた彼は、自分が去った後のリンクに大歓声で迎えられた高橋選手に向かって「大ちゃん、がんばって」と言って、去ったんです。
私にはあの時の彼の表情に、胸が締め付けられました。
一体どんな思いの涙だったのか、エールだったのか。

織田選手は高橋選手と共に、日本男子フィギュアを牽引してきたとよく言われます。しかし見ていればわかるように、高橋選手の方が実力も実績も上。世界でいくつものメダルをとってきた高橋選手には及ばないことを、織田選手自身もわかっているはずです。彼と高橋選手はスケーターとしてのタイプも違いますが、やはり比較されることも多かっただろうし、そのたびに悔しい思いもしただろうと思います。
そんな彼が演技後に見せた、どこか寂しさを漂わせる涙に、私はドキッとしたんです。この涙は、何の涙なんだろうと。彼は何を思って、高橋選手にエールを送ったのだろうと。

そして、高橋選手の演技。
万全でない体で、高橋選手自身が求める演技には遠く及ばない出来。ジャンプにミスが続き、手のひらは血にまみれ、悲壮感さえ漂っていました。しかし、それでも感動を呼び起こすのが彼の凄さ。
満身創痍でも、一人だけ群を抜いた表現力は健在で、見るものを彼の世界へと引き込んでいきました。
高橋選手もまた、演技後には何かを悟ったような表情を見せていました。
しかし、キスアンドクライでの表情や、試合後のインタビューで見せた悔し涙からは、ただ自分の不甲斐なさに対する思いだけが見えました。先のことはまだ、考えられないといったように。

そんな2人の後に登場したのが、今季大ブレークし、代表候補に名乗りを上げた町田樹選手。
彼はもう、自分しか見えていません。
織田選手と高橋選手の2人が残した空気にのまれることなく、むしろそんなものなどなかったかのように、自分の演技をし、「僕がソチに行きます」と高らかに宣言してみせました。

そして最終滑走は小塚崇彦選手。
4年前のバンクーバー五輪では高橋選手、織田選手と共にリンクに立ち、爽やかな印象を残した20歳の青年も、今は中堅、ベテランの域に達しようとしています。
怪我に苦しみ、思うような成績を残せない日々が続いた中で、這い上がってきた今季。
この日最後に滑った彼は、定評のある美しい滑りに、安定感のあるジャンプ(一回の転倒はありましたが…)で、町田選手に続く会心の演技を見せ、見事表彰台に上りました。

圧倒的な実力を見せた若き王者。実績のあるベテランと才能溢れる若手に挟まれ、意地を見せた中堅。そして、選手生活最後のシーズンを闘うベテランたち。
演技に込められたそれぞれの思いに、激しく心を揺さぶられた1時間でした。

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さて、ソチ五輪の代表選手は、本日23日発表です。
1位の羽生選手は代表決定、2位の町田選手もほぼ決まりでしょう。残り1枠を、小塚選手と高橋選手で争うことになるようです。今大会で表彰台にのれなかった織田選手は、代表候補にはなれなかったよう。。
私にも好みのスケートはあるし、ソチのリンクでは誰々の滑りが見たい、というのはありますが、どの選手が選ばれても応援することには変わりありません。(小塚選手の滑りも高橋選手の滑りも好きだから、どちらも見たいですよ…)

早く時が過ぎて欲しいような、そうでないような…。
熱い冬は、まだ始まったばかり。

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