『そこのみにて光輝く』

佐藤泰志の同名小説の映画化。
夏の函館を舞台に繰り広げられる、若い男女の愛と、家族の物語。

※  ※  ※

『海炭市叙景』に続く、佐藤泰志作品の映画化です。『海炭市叙景』は映画も原作も気に入っていて(それぞれ感想はこちら→映画原作)、この作品も映画化されると聞いて気になっていました。ただ、この原作は一昨年読んでいるのですが、当時はピンときませんでした。内容もうろ覚えで、今回映画を見ながらポツポツと思い出しましたが…。

内容は映画.comさんより。

仕事を辞めブラブラと過ごしていた佐藤達夫は、粗暴だが人懐こい青年・大城拓児とパチンコ屋で知り合う。ついて来るよう案内された先には、取り残されたように存在する一軒のバラックで、寝たきりの父、その世話に追われる母、水商売で一家を支える千夏がいた。世間からさげすまれたその場所で、ひとり光輝く千夏に達夫はひかれていく。しかしそんな時、事件が起こり……。

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以下、ネタバレあり。

主人公の佐藤達夫を綾野剛、大城千夏を池脇千鶴、千夏の弟・拓児を菅田将暉、千夏の愛人・中島を高橋和也、達夫の元上司を火野正平が演じています。この5人を軸に物語は展開されていきます。

舞台は函館。原作は80年代とかだったと思いますが、映画は現代になっているようです。
上記の通り、千夏と拓児は海のそばにある汚いバラックに住む、社会の底辺で生きる人々。達夫はある理由で仕事を辞めて、家とパチンコ屋を行き来するような堕落した毎日を送っています。
この両者は似ているようで、住む世界が違います。その違いが、希望を感じさせるラストにも影を落としています。

達夫と千夏は、拓児を介して出会い、惹かれていきます。
一目惚れといってもいいような感じでしたが、互いに今の状況から逃れたいゆえ、違う世界で生きる相手に救いを求めているようにも見えました。しかし、2人の間にはやはり壁がありました。
店で体を売るだけでなく、中島という地元で幅をきかせる有力者の愛人としても生きる千夏。彼女をそんな生活から救い出したいと思い、達夫は行動に出ます。彼女のために仕事を始める決意をし、千夏にも今の仕事を辞めるように言います。
ただ、彼女にも今の仕事につかなければならない事情があります。簡単に達夫に身をゆだねるわけにもいきません。達夫から同情心を感じていたかもしれないし、簡単に店を辞めろという達夫を一蹴します。

正直、達夫に千夏が抱える問題を解決できる力はないと思いました。それは見終わった後でも変わりません。
考えが甘いというか。妻子ある中島に向かって「家庭を大事にしてください」なんて言うのも余計なお世話でね。
ただ、千夏の家庭の事情(身体が不自由な父親の性欲処理まで千夏がしているという…)を知ってもなお、「(千夏と)家庭を持ちたい」と言ったのはすごいと思いました。そして、この「甘さ」というか「優しさ」が、達夫の最大の魅力であり、今の千夏に必要なものだったのだと気付きました。
この後起こる悲劇(後述)を考えると、2人の出会いは不幸だったのでは…とも考えてしまうのですが、千夏の無垢な笑顔を見ると、この出会いは必要だったのかな、と。
達夫の元上司(この上司を演じる火野正平がまたいいんです)がいつまでも達夫のことを気にかけているのも、達夫の人柄に惚れているからなんでしょうね。

葛藤の末に、千夏(と拓児)は今の仕事を辞め、達夫と共に新しい人生を歩むことを決意します。ところが、千夏の愛人である中島がそれを許しません。
実は拓児は過去に傷害事件を起こしており、現在仮釈放中の身。その保証人になっているのが中島でした。中島はそれを脅しに使い、千夏を引き留めようとします。しかし、千夏に拒まれてしまい、最後は力づくで彼女を襲います。
顔に大きなあざをつくり帰宅した千夏を見た拓児は、姉の身に何があったのかを察し、中島の元へと向かいます。

拓児は再び刑務所へ行くことになるのですが、この件で、過去の傷害事件も姉を侮辱されたことが理由で起こしたものだったとわかります(まあ、あくまでも推測ですが)。
拓児は姉が体を売っていることも、愛人をしていることも知っていて、それがさも当然であるような発言もしていましたが、心の中では誰よりも彼女のことを思っていました。
出頭する直前、彼は達夫の前で号泣します。自分は結局何もできないと、家族のために何もできないと。
この言葉、達夫はどんな思いで聞いていたのだろうと思いました。達夫は、自分が無力であるとは感じていないのかな、なんて(ちょっと意地悪かな)。
そして物語は、自暴自棄になった千夏が父親を殺そうとしているのを達夫が発見し、止めたところで終わります。

ラストシーンはバラックのそばにある汚い海岸で、朝日を浴びる達夫と千夏。
彼らを照らす光は、果たして彼らにとっての希望を意味するのか。
2人が将来「家庭」を持つのなら、その先には必ずそれぞれの家族がついてきます。劇中には声のみですが、達夫の妹も出てきました。彼女はすでに結婚しており、達夫や千夏よりは裕福な生活を送っているように思われました。
達夫は初めて大城家を訪れた際に驚きの表情を見せており、そこまで大きな差はなくとも、彼らが住む世界に「違い」はあるんですね。この違いが再び2人の間に壁をつくり、彼らに悲劇をもたらすのではないか。そんな考えが最後まで消えませんでした。
物語はここで終わっているので、この先2人がどうなるのかなど知る由もないし、考える必要もないのかもしれませんが…。

家庭と言えば、中島についても触れておかなければなりません。
愛人である千夏に、狂気じみた執着を見せる中島ですが(中島を演じる高橋和也の演技が凄い…)、彼からは男の悲哀を感じました。
ホテルで事を済ませ、さっさと部屋を出ようとする千夏に対し、全裸で「男がいてもいいから」とすがりつく場面。思わず涙がこぼれました。情けないというかみじめというか、悲しいというか…。
中島は一応家庭では「いい父親」「いい夫」らしいんですね(本人曰く)。そのストレス?の吐け口に千夏を利用していたようなんですが、彼女を利用しているはずが、いつの間にか彼女にのめり込んでいたようで。
愛情とは違うんですよね。あって当然と思っていたものを失う恐怖感または焦燥感でしょうか。最後の最後まで下品でみっともない姿を晒していました。
そんな彼にも妻や子どもがいるんですよ。その悲しみです、涙が出てしまったのは。彼が独身者なら、おそらくホテルの場面はそこまで胸に刺さらなかったと思います。

※  ※  ※

『そこのみにて光輝く』
タイトルの「そこ」は、「其処」だと思っていたのですが、今回映画を見て、「底」という意味も含まれるのかなあとぼんやり思いました。特に千夏の生活環境は悲惨ですし…。ただ、同じ佐藤泰志原作の『海炭市叙景』と比べると、テーマは重いのですが、作品から受ける印象はこちらのほうがライトです。
『海炭市叙景』で扱われる家族のほうが身近なので、より共感できる(ゆえに重くのしかかってくる)というのもあると思いますが、この『そこのみにて光輝く』は拓児の底抜けの明るさと、達夫の良くも悪くも純粋な優しさが、作品全体の印象を軽くしているように思います(悪い意味ではありません)。
呉美保監督の作品は『オカンの嫁入り』しか見ていませんが、このような作品も撮るんですね。

俳優陣は主演の2人を始め、みなさん素晴らしい演技だったのですが、特に光っていたのが拓児を演じる菅田将暉と、中島役の高橋和也です。
菅田将暉(「すだまさき」と読むそうで)は初めて見た俳優さんですが、いいですねえ。ちょっと山田孝之に似てますよね(…と、その山田孝之とは『闇金ウシジマくん』で共演しているようで)。
この作品、R15指定なんですが、そのあたりの年齢と思われる女の子が数人で見に来ていました。綾野剛か菅田将暉のファンかなあと思ったのですが…。彼女たちがこの映画をどう見たのか、ちょっと気になりました(余計なお世話ですかね、笑)。
高橋和也は、パンチパーマに脂ぎった肌、ぎょろっと大きな目が迫力満点で、金に物言わせて幅を利かせる(こう言ってはなんですが)いかにも田舎の有力者といった男を見事に演じていました。圧巻でした。いまだにあの顔が浮かびますもん(こわい…)。

というわけで、今年2本目の鑑賞作品は『そこのみにて光輝く』でした。
本編上映前の予告で面白そうな作品を何本か見つけたので、ぼちぼち映画鑑賞のほうもペースをあげていきたいと思います。。

そこのみにて光輝く

『そこのみにて光輝く』
2013年/日本/2時間0分
監督:呉美保
原作:佐藤泰志
脚本:高田亮
出演:綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉、高橋和也、火野正平、伊佐山ひろ子、田村泰二郎 他
※5月6日、KBCシネマにて鑑賞

2 Comments
  1. こんにちは(^_^)
    この作品すごく、見たくて今週末まだやってそうなので行く予定にしてます(*^^*)わたしとなんだか感性が似てる気が勝手にしてます(*^_^*)
    連休はカメラもってどちらかおでかけできました?
    わたしは八幡の藤棚と近場で舞鶴の芍薬園に、いきました(^_^)
    わたしがいったときつぼみがいっぱいだったので今週末ぼちぼち咲きだすかもしれません(*^^*)とってもオススメです( ´ ▽ ` )

  2. >しぃ。さん
    こんばんは。
    ちょっと暗い話ではありますが、いい作品でした。俳優さん達の素晴らしい演技は必見ですよ!
    カメラの方は最近気分が乗らなくてお休み中なんですが、舞鶴の芍薬は一応様子を見に行ってきました。つぼみが多かったですが、カメラを持った方も結構いらっしゃいましたね!
    もうそろそろ咲き始めてる頃でしょうか。週末、天気が良ければ行ってみたいと思います^_^

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