『6才のボクが、大人になるまで。』

6歳の少年とその家族の12年にわたる軌跡を、同じキャストで12年間に渡り撮り続けた人間ドラマ。

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主人公を演じたエラー・コルトレーンをはじめ、主要人物4人を同じキャストで12年間に渡り撮り続けたという手法が話題を呼び、私もそこに興味を持ち見に行ったのですが、ストーリーもとてもよくできていました。
12年間という年月は、映画(フィクション)の中での年月だけでなく、その間同じ役を演じ続けたキャスト自身が積み重ねた年月でもあり、想像していた以上に奥深く、味わいのある作品に仕上がっています。

以下、ネタバレあり。

ストーリーはシネマ・トゥデイより。

メイソン(エラー・コルトレーン)は、母親オリヴィア(パトリシア・アークエット)と姉サマンサ(ローレライ・リンクレイター)とテキサス州の小さな町で生活していた。彼が6歳のとき、母親は子供たちの反対を押し切って祖母が住むヒューストンへの引っ越しを決める。さらに彼らの転居先に、離婚してアラスカに行っていた父親(イーサン・ホーク)が1年半ぶりに突然現れ……。

主人公は6歳の少年メイソン。
両親は離婚しており、母親と姉のサマンサとともに暮らしています。
メイソンが6歳のある日、一家は祖母のいるヒューストンへ引っ越します。母親が大学で学ぶことを望み、子育てと勉学の両立のために、祖母の力が必要となったからです。
しかし、その転居先へ突然父親が現れます。母と父の間にできた溝は深く、父親はメイソンたちとともに暮らすことはなかったのですが、彼らは定期的に会うこととなりました。この実の父親との関係は、映画で描かれる12年の間続き、メイソンの人生にも大きな影響を与えます。

母親のほうはと言うと、メイソンたちの父親と別れた後、2度再婚をしますが、いずれもうまくいかず離婚してしまいます。
この母親の「都合」もまた、メイソンたちの人生を大きく左右します。
映画は、この家族の転機となる一部分しか描かないので、メイソンたちの生活の多くは語られないのですが、それが苦労の連続だったことは容易に想像でき、母親に振り回されているという印象が強く残ります。
度重なる転校もそうですし、新しい父親との関係もそう。
最終的に母親は再びシングルマザーに戻るのですが、この12年間というのは、家族と自分の人生の間でもがいた一人の女性の記録でもありました。

私は年齢的に母親と近いせいか、メイソン少年の12年間よりも、母親の生き方に強く興味がわき、共感しました。
子育てをしながら勉学に励み、大学で教鞭をとるまでになった彼女ですが、すでに書いたように再婚を繰り返すなどプライベートではうまくいかないことが多く、その印象は決していいものではありませんでした。
再婚相手が二人ともアル中になってしまったので、母親の男運が悪いのかなあと思ったのですが(皮肉なことに、母親と別れた実の父親はその後、幸せな家庭を築いている)、メイソンたちが実の父親と定期的に会っていたことを考えると、それが再婚相手に与えるプレッシャーは大きく、「父親」になりたくてもなれなかった男たちが自信を失い、アルコールに溺れてしまった気持ちはわかる気がするんですね。
母親は、不幸を呼ぶ人間になってしまっているんです。

ただ、終盤に、彼女の一言により人生が好転したという青年が出てきます。
その青年はかつて、メイソン一家の家の下水道工事にきたことがありました。その際、彼の頭の回転の速さに感心した母親が、彼に大学に行くことを薦めたんです。彼女にとっては何気ない一言だったのですが、青年はその時の言葉を胸に深く刻み、大学へ通い、再会した時には飲食店の店長を任せられるまでになっていました。
青年は、今の自分があるのはあなたのお陰だと、彼女に感謝の言葉を伝えます。
それは、おそらく彼女を救っただろうし(青年ではなく、自分の子どもたちから聞きたかった言葉だっただろうけど)、私も彼の一言に大きく救われました。
というのも、母親に共感していた私は、彼女が「不幸を呼ぶ人」のまま映画が終わってしまうことに納得がいかなかったんです。この青年のエピソードがなかったら、私はこの作品に対し、いい印象は持てなかったと思います。

6歳の少年も18歳になり、大学進学のため家を出ることになります。
メイソンが旅立つその日、母親は感極まって号泣します。彼女のその姿を見て、自分の母親のことを思いました。
私自身も大学進学のため親元を離れたので、その旅立ちの日の、空港のロビーでの出来事を思い出したり。。また、私の母も離婚経験者です。
そして、私のいまの年齢の頃には子育てに奮闘していた母親(映画の中の彼女もですし、私の母親もそうですし)に対し、独身を貫く私。私の人生は何なの? と。答えなんて出ないけれど、自分の人生をかえりみずにはいられません。

最後はメイソンが大学で出会った女性と語り合うシーンで終わるのですが、そこで印象的なセリフが出てきます。

You know how everyone’s always saying, “Seize the moment”? I don’t know why… I’m kind of thinking it’s the other way around. You know, like, the moment seizes us.

seizeというのは「掴む」というような意味。人はよく「一瞬を掴め」と言うけれど、そうではなく、時間が私たちを掴まえているんじゃないか…というような内容です。

メイソンは学生になってカメラを始めるんですが、写真を撮るという行為はまさに “seize the moment” なんですね。でも実際には、私たちは「時」を止めることも、戻すことも、進めることもできず、ただその流れに身を任せているだけです。
写真を撮るという行為は、どうあがいても逆らうことのできない「時」に対する、私たち人間のささやかな反抗なのかもしれません。

原題のboyhoodは「少年時代」といった意味ですが、長い人生の中でみると、boyhoodはmoment。何年も前の出来事は、今思うとまさに一瞬のことで、それが眩しいくらいの輝きを放っていたり、その逆であったり。boyhoodという言葉を聞いただけで特別な感情がわくくらいに、私たちはそこに囚われて生きています。
でも、boyhoodの時分には、目の前に満天の星のようにmomentが溢れていて、その溢れるmomentを必死で追いかけ、掴もうと、がむしゃらに生きていたのかな、と。

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12年間同じ役を演じたのは、メイソン役のエラー・コルトレーン、姉役のローレライ・リンクレイター(この作品の監督の娘さん)、実の父親役のイーサン・ホーク、そして母親役のパトリシア・アークエットです。
12年の間に、エラー・コルトレーンやイーサン・ホークは、実生活でも離婚(コルトレーンは両親の)を経験したそうです。
映画の中の12年間と、彼ら自身の12年間。この2つの時間の融合は、言葉に言い表せない絶妙な空気を醸し出しています。
ドキュメンタリーを見ているのか、フィクションを見ているのか、もう映画でさえないような、そんな不思議な2時間45分でした。
また、家族の12年間とともに描かれるアメリカ社会の変遷も興味深いです。

boyhood
『6才のボクが、大人になるまで。』
英題:BOYHOOD
2014年/アメリカ/2時間45分
監督・脚本: リチャード・リンクレイター
製作: キャスリーン・サザーランド
キャスト:エラー・コルトレーン、ローレライ・リンクレイター、イーサン・ホーク、パトリシア・アークエット 他
※2月7日、KBCシネマにて鑑賞

…それにしても、ひどい邦題です。。
こんなタイトルにするなら、原題の直訳「少年時代」のほうがよかった。。

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