『フォックスキャッチャー』

1996年にアメリカで起きたデュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンによるレスリング五輪金メダリスト射殺事件を基に描いた人間ドラマ。

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ストーリーは映画.comより。

ロサンゼルスオリンピックで金メダルを獲得したレスリング選手マーク・シュルツは、デュポン財閥の御曹司ジョンから、ソウルオリンピックでのメダル獲得を目指すレスリングチーム「フォックスキャッチャー」に誘われる。同じく金メダリストの兄デイブへのコンプレックスから抜けだすことを願っていたマークは、最高のトレーニング環境を用意してくれるという絶好のチャンスに飛びつくが、デュポンのエキセントリックな行動に振り回されるようになっていく。

以下、ネタバレあり。

オリンピックで金メダルを獲得したにも関わらず、マイナー競技のため脚光を浴びることなく、細々と日陰で生きるマーク(チャニング・テイタム)。
莫大な財産で不自由なく暮らしながら、心は満たされず、手に入れられないものを金で買おうとするジョン(スティーブ・カレル)。
金メダリストという名誉を手に入れ、人望もあり、あたたかい家族に囲まれて幸せに暮らすマークの兄デイヴ(マーク・ラファロ)。

物語はこの3人を中心に繰り広げられますが、一番のキーマンとなるのは兄デイヴ。彼に対する劣等感が、マークとジョンの人生を狂わせていきます。

ロサンゼルスオリンピックで共に金メダルを獲得したマークとデイヴ。しかし、2人の人生は大きく違います。
コミュニケーション下手なのか、周囲とうまく関係を築けず、一人で孤独に暮らすマーク。対してデイヴは、美しい妻と可愛い子どもたちに恵まれ、レスリングの指導者としても成功し、幸せな生活を送っています。
兄へのコンプレックスに苦しむマークの前に現れたのが、財閥の御曹司ジョン・デュポン。自宅の広大な敷地にレスリング施設をつくり、そこを拠点とする「フォックスキャッチャー」と名付けたレスリングチームへマークを誘います。
マークは迷わずジョンの誘いを受け、フォックスキャッチャーで暮らし始めますが…。

ジョンはお金も時間もあり、何不自由なく暮らしています。「金で買えないものはない」と思っており、手に入れたいものを金で買おうとします。
名誉、人望、母親からの愛・正当な評価。
そのために、あらゆることをするわけですが、どれも手に入れることができない。
マークをフォックスキャッチャーへと誘ったのは、彼のコーチとなり、彼がオリンピックで金メダルを獲ることで、金メダリストの指導者となり名誉を得るためなんですね。ですが、それもうまくいかなくて、彼はマークを諦め、有能な兄デイヴを誘います。
しかし、自身の名誉のために誘ったはずのデイヴが、ジョンをさらに苦しめることになります。デイヴは自分の引き立て役となるはずだったのに、ジョンがどうあがいても得ることのできなかったものを彼は持っていたからです。

デイヴはいかにも人気者といった感じの風貌で、通常ならば常識人でありふれた人物の彼も、この映画の中ではどこか異質な雰囲気を漂わせています。
彼はマークを心から愛し、どんな時も彼のことを心配し、いつも助言を行ってきました。でも、マークにとってはそれが苦しかった。いつまでも「被保護者」としてしか見られないことに、苛立ちも覚えていました。
デイヴにとって、マークを気遣うことも、人前で家族と戯れることも当たり前のことで他意なんて何もないのですが、それが当たり前ではないマークやジョンは自分への当てつけとしか受け取れなかったわけです。デイヴは無意識のうちに、マークやジョンを傷つけていたんですね。
結局それが、最後の悲劇を引き起こしてしまいます。(私は嫉妬と見ているのですが)逆恨みしたジョンに殺されてしまうんです。

持てる者と持たざる者、と言うのでしょうか。
この映画ではデイヴが前者で、マークとジョンは後者になります。
持てる者は持たざる者の気持ちがわからない。
デイヴがマークやジョンに対してそのことで配慮する必要なんてないですし、少なくとも劇中では彼は何も悪いことなどしていません。でもどこか私もデイヴに対して嫌いとまではいかないまでも、気に入らない(笑)部分がありました。(どっちかと言うと、私もマークに近いですから。。)
ジョンの言動は明らかに狂ってるし、裸の王様で見ているこっちが恥ずかしくなるレベルなんですが、全く別世界の人間(経済的には別世界ですが)とは思えません。人との付き合いにおいてコンプレックスを抱いている人は、何かしらマークやジョンの気持ちに共感する部分があるのではないでしょうか。

フォックスキャッチャーという自然に囲まれた広大な農場と、そこで繰り広げられる人間模様を、カメラは静かに、一歩も二歩も引いたところから冷徹に映し出します。いつ何が起きるかわからない緊張感が終始漂い、とても集中して見ることができました。
物語自体は悲劇なんですが、しばらくこういった人間の心理に鋭く迫った映画を見てなかったので、とても面白かったです。(見終わった後は疲れと虚しさに襲われましたけど)
無駄なものを排除し、言葉ではなく映像で語るところもいいですね。肉体が激しくぶつかり合う音なども効果的に使われていて。

俳優陣の演技もとても素晴らしかったです。
ジョンを演じたスティーヴ・カレルは、(実際のジョン・デュポンがどういう外見かは知りませんが)体型まで含めてパーフェクトだったと思います。低い背にたるんだ上半身、そこから伸びる細い脚。スポーツとはまるで無縁な体型。
そしてあの強烈な鷲鼻。ジョンは人を見下すように常に顎を上げているのですが、あの鷲鼻は彼のそんな高圧的な態度をさらに強調しています。彼は自分を「ゴールデン・イーグル」と呼ぶようにマークに指示するんですけど、あの鼻はまさに鷲の嘴で。
いつ狂気が爆発するかわからない緊迫感溢れた演技も最高でした。

フォックスキャッチャー
『フォックスキャッチャー』
英題:FOXCATCHER
2014年/アメリカ/135分
監督:ベネット・ミラー
脚本: E・マックス・フライ、ダン・ファターマン
キャスト:スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ 他
※3月14日、KBCシネマにて鑑賞。

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