『妻への家路』

文化大革命により引き裂かれた家族の哀しみ、そして愛を描いたチャン・イーモウ監督作品。

※  ※  ※

ストーリーは映画.comより。

1977年、文化大革命が終結し、収容所から解放されたルー・イエンシーは、妻のフォン・ワンイーと再会する。しかし、夫を待ちわびるあまり、その心労から記憶障害となっていたワンイーは、イエンシーを夫だと認識することができなかった。イエンシーは、いつか妻の記憶が戻ることを信じて、他人として向かいの家に住み始めるが……。

邦題から夫婦愛を描いた作品かと思って見ましたが、夫婦と娘、家族の再生の物語でした。

以下、ネタバレあり。

文化大革命時、政治犯として党から追われるイエンシー。
父親が政治犯ということで、大好きなバレエでは実力がありながらも主役の座を奪われてしまった娘のタンタンは、父親に対し恨みを募らせていき、父親の居場所を党に密告してしまいます。
その後イエンシーは逮捕。この逮捕がきっかけで、妻のワンイーとタンタンとの関係は悪化し、母と娘は仲違いしたまま時は流れていきます。
そして1977年、文化大革命が終結し、20年振りに解放されたイエンシーは自宅へと戻ります。ところが、ワンイーは心労から記憶障害となり、イエンシーを夫と認識できなくなっていました。
イエンシーはタンタンと協力しながら、なんとかしてワンイーの記憶を取り戻そうと悪戦苦闘しますが、何をしても彼女の記憶は戻りません。やがて、彼は「夫」としてワンイーの元へ戻ることをあきらめ、「隣人」として彼女に寄り添って生きていく決意をします。

主演2人はもちろんですが、娘タンタンを演じたチャン・ホエウェンがとても素晴らしかったです。
北京舞蹈学院を卒業し、本作で映画デビューを果たしたという新人女優さんだそうですが、とても初めての映画出演とは思えませんでした。
舞蹈学院出身というだけあって、冒頭のバレエシーンから惹きつけます。(ライフル銃を持って踊るプロパガンダバレエにはびっくり) 彼女のバレエシーンもこの映画の重要な見所です。
少女時代の過ちと後悔から両親に対して素直に向き合うことができないでいるのですが、2人の行く末を心配し陰から見守る健気な姿には本当に胸を打たれます。
この映画において彼女の存在はとても大きく、「夫婦の物語」としてしまうのは違和感があります。『妻への家路』という邦題もこれはこれでいいのですが、タイトルから娘の存在が見えなくなってしまったのはちょっと寂しいかな。

作品自体はインパクトに欠け、大味で詰めの甘さが見えます。リアリティを追求したというよりは寓話的なものでしょうか。
全編を通して、文化大革命に対する批判が散りばめられていますが、それは決して過激なものではなく、さりげない描写の中に込められています。静かに、しかし強い意志を持って。文革終結後のイエンシーの端正な佇まいのように。

永遠に「夫」の帰りを待ち続けるワンイー、そして彼女に寄り添い続けるイエンシーとタンタン。
しんしんと雪が降り積もるラストシーンは美しいですが、3人の癒えることのない傷と苦難の人生がくっきりと浮かび上がり、鑑賞後には哀しみばかりが残りました。

妻への家路
『妻への家路』
原題:帰来
英題:Coming Home
2014年/中国/110分
監督: チャン・イーモウ
原作: ヤン・ゲリン
脚本: ヅォウ・ジンジー
キャスト:チェン・ダオミン、コン・リー、チャン・ホエウェン 他
※3月21日、KBCシネマ

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