『イミテーション・ゲーム』『バードマン』『セッション』

第87回アカデミー賞で作品賞にノミネートされた3作品の感想をまとめて。

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今年はアカデミー賞関連の作品をできるだけ鑑賞しようと思い、3月に行われた第87回アカデミー賞でノミネートされた話題作はできるだけ見るよう心がけています。作品賞ノミネートの作品については、すでに上映が終わっている『グランド・ブダペスト・ホテル』以外は観賞できそうです。
今回は、4月・5月に鑑賞した『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『セッション』の感想を。

まずは『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』から。

概要は映画.comより

第2次世界大戦時、ドイツ軍が世界に誇った暗号機エニグマによる暗号の解読に成功し、連合国軍に勝機をもたらしたイギリスの数学者アラン・チューリングの人生を描いたドラマ。
1939年、第2次世界大戦が始まり、イギリスはドイツに宣戦を布告。ケンブリッジ大学の特別研究員で、27歳にして天才数学者と称えられるアラン・チューリングは英国政府の秘密作戦に参加し、ドイツ軍が誇る暗号エニグマの解読に挑むことになる。解読チームには6人の精鋭が集められるが、他人と協調することを嫌うチューリングとチームメンバーとの間には溝が深まっていく。

孤独な天才数学者が戦争をきっかけに他人と心を通い合わせる喜びを知り、終戦によって再び孤独におちていく。哀しい物語でした。

エニグマの解読チームに選ばれた精鋭たちは、チューリングほどではなくとも、異質な存在として扱われていたであろう人々。
チューリングの理解者として描かれるキーラ・ナイトレイ演じるジョーン・クラークも数学の才能あふれる女性ですが、「女性」というだけで、両親からはその才能を活かす生き方を認めてもらえません。
そんなメンバーの中で、チューリングは特に浮いていたわけですが、同じ才能あふれる仲間たちと同じ目的に向かって日々を過ごす中で、次第に打ち解けていきます。チューリング自身、本当は周囲と触れ合い、理解し合いたいという願望はあったのでしょう。そんな不器用なチューリングを演じたカンバーバッチの繊細な演技はとても素晴らしかったです。

解読チームは思わぬところからヒントを得て、エニグマの解読に成功し、戦争は終結。解読チームの存在は記録から抹消され、メンバーは「赤の他人」としてそれぞれの生活に戻ります。
しかし、皮肉なことに、チューリングには再び孤独な生活が待っていました。最終的に彼は自ら命を絶ち、その波乱の人生は幕を下ろします。

チューリングが主人公の物語ではありますが、彼以外の人物もキャラが立っていて見応えがありました。一人の天才数学者の物語と言うよりは、マイノリティとならざるをえない人々の物語にも見えました。
カンバーバッチの素晴らしさはもちろんですが、ジョーン・クラークを演じたキーラ・ナイトレイも良かったです。こんなにいい女優さんだったんだなあ。アランの少年期を演じた子役のアレックス・ロウザーも、とてもいい目をしていました。


『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』
原題:The Imitation Game
2014年/イギリス・アメリカ/115分
監督:モルテン・ティルドゥム
キャスト:ベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、マーク・ストロング、チャールズ・ダンス 他
(4月11日、TOHOシネマズ天神にて鑑賞)

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

概要はシネマトゥデイより。

『バベル』などのアレハンドロ・G・イニャリトゥが監督を務め、落ち目の俳優が現実と幻想のはざまで追い込まれるさまを描いたブラックコメディー。人気の落ちた俳優が、ブロードウェイの舞台で復活しようとする中で、不運と精神的なダメージを重ねていく姿を映す。
かつてヒーロー映画『バードマン』で一世を風靡(ふうび)した俳優リーガン・トムソン(マイケル・キートン)は、落ちぶれた今、自分が脚色を手掛けた舞台「愛について語るときに我々の語ること」に再起を懸けていた。しかし、降板した俳優の代役としてやって来たマイク・シャイナー(エドワード・ノートン)の才能がリーガンを追い込む。さらに娘サム(エマ・ストーン)との不仲に苦しみ、リーガンは舞台の役柄に自分自身を投影し始め……。

先の読めないスリルある展開と、クレイジーな俳優たちに不規則なリズムを刻むドラム。舞台の臨場感も伝わってきて、哀しい話ながらワクワクが止まりませんでした。疑似ワンカットのカメラワークは、マジのワンカット映画『予兆の森で』を見た時の興奮を思い出しました。特に舞台裏のシーンでは、自分もその場にいるような感覚で興奮が止まらなかったです。
お金をかけた大作映画ばかりがヒットするハリウッド、権威主義にこりかたまった演劇界などに対する皮肉は、少しくどかったですけどね。

誰しも「人に認められたい」という願望を持って生きています。
リーガンもマイクもサムもそれぞれ立場や事情は違うものの、「承認欲求」がこの映画の根底にはあります。
もう一度スポットライトを浴びようともがくリーガンも、落ち目の役者を使って自分の優位性を保つマイクも。個人的に気になったのはリーガンの娘サムで、彼女が(父親より若いとは言え)年の離れた中年のマイクに体を許すのは、父親との関係がうまくいってなかったことも要因の一つではないかと思いました。
インタビューで監督が「誰の中にも小さなバードマンが存在する」と仰っていましたが、まさにその通りで、話の舞台は華やかなハリウッドで遠い世界ではありますが、そこにいる人間たちの苦悩には共感できるものがあります。
コメディと評されることもある作品ですが、心の底から笑えるシーンなど一つもなく、壊れる寸前でギリギリ堪えて苦しむリーガンの姿に時折自分自身が重なり、キュッとした痛みに襲われました。

マイケル・キートンを始め、キャストの経歴と劇中の役柄が被っていたり、あらゆる面で現実と虚構が入り混じった作品で、どこまでが現実なのか夢なのか、意図しているのかそうでないのか、判断がつかないのですが、それをあれこれ考えるのが楽しくもあります。
これもまた、映画の醍醐味ですかね。。


『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
原題:Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)
2014年/アメリカ/120分
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
キャスト:マイケル・キートン、ザック・ガリフィナーキス、エドワード・ノートン、アンドレア・ライズブロー、エイミー・ライアン、エマ・ストーン、ナオミ・ワッツ 他
(4月21日、TOHOシネマズ天神にて鑑賞)

『セッション』

概要はシネマトゥデイより。

サンダンス映画祭でのグランプリと観客賞受賞を筆頭に、さまざまな映画賞で旋風を巻き起こした音楽ドラマ。ジャズドラムを学ぼうと名門音楽学校に入った青年と、彼にすさまじいスパルタ的指導を行う教師の姿を追い掛けていく。
名門音楽学校へと入学し、世界に通用するジャズドラマーになろうと決意するニーマン(マイルズ・テラー)。そんな彼を待ち受けていたのは、鬼教師として名をはせるフレッチャー(J・K・シモンズ)だった。ひたすら罵声を浴びせ、完璧な演奏を引き出すためには暴力をも辞さない彼におののきながらも、その指導に必死に食らい付いていくニーマン。だが、フレッチャーのレッスンは次第に狂気じみたものへと変化していく。

フレッチャーのいじめともとれるスパルタ教育も、自信過剰で自分の非を認めないニーマンの幼さも、本当に見ていて苛々するし、認めたくはないものなんですけど、作品としてはすごく面白かったです。

天才アルトサックス奏者のチャーリー・パーカーは若い頃、演奏中にドラマーからシンバルを投げつけられ、その屈辱がなければ彼は天才にはならなかったというエピソードを引き合いに出し、指導と称して学生たちに罵詈雑言を浴びせるフレッチャー。彼が最後にニーマンに投げたシンバルは、私などはとても受け入れられるものではないのですが、そのシンバルを素手で掴み投げ返したニーマンの姿は痛快そのものでした。さらに、狂気とも言えるニーマンの演奏が、2人の間に存在する憎悪を超えて一つになる瞬間は最高で、ラストは言葉にできないカタルシスが待っています。
始終エゴとエゴのぶつかり合いで苛々しながら見ているのに、彼らの勢いにのまれていつしか自分も狂気の中へと引き込まれていくのがわかりました。

引用したシネマトゥデイの説明には「音楽ドラマ」と書いてありますが、この映画はジャズ映画でもなく音楽映画でもなくスポ根映画でもなく、狂気を楽しむ映画だと思います。監督がホラー映画で脚本を書いたことのある方なので、ホラー映画と評する人もいますが、音楽映画というよりは、そっちのほうがしっくりきます。
そして、ニーマンの最後の演奏には爽快感を覚えますが、エンドロールが終わって一息つくと、いろんな考えが巡ってきて、虚無感に襲われます。
すでに書いた『バードマン』にも通じるものなんですが、映画でも舞台でも音楽でも「最高」と称されるためには狂気が必要なのだとしたら、一体その狂気のためにどれだけの人生が犠牲になるのだろうと。
フレッチャーの教育も同じで、たった一人の天才を作るためにこれまで何人の若者が犠牲になってきたのかと。
そして、その数多くの犠牲の上に成り立っている作品に涙し、称賛する観客とは何なのかと。
何事も犠牲の上に成り立っている世界ではありますけど、そんなことを考えて、ふと虚しくなってしまいました。

原題は『Whiplash』。同名の楽曲を劇中で演奏しているのですが、この単語には「ムチ打ち」という意味もあって、まさにこの映画にふさわしいタイトルです。


『セッション』
原題:Whiplash
2014年/アメリカ/107分
監督・脚本:デイミアン・チャゼル
キャスト:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノア、ポール・ライザー、オースティン・ストウェル 他
(5月6日、TOHOシネマズ天神にて鑑賞)

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