アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015(2)~東アジア編

アジアフォーカスの感想。2回目は、東アジア編です。(1回目から時間が経ってしまってすみません。。)
中国、韓国、台湾の作品は、一番身近なアジア映画。その他の地域の作品は、新しい世界への興味で純粋に楽しめることが多いのですが、この地域の作品は「異文化」という一言で単純に区切ることのできない近さがありますよね。。

※  ※  ※

『赤い季節の忘却』(★★★★★)
赤い季節の忘却_ポスター
英題:Red Amnesia
2014年/中国/105分
監督:ワン・シャオシュアイ
キャスト:リュイ・チョン、シー・リウ、フォン・ユェンチョン、チン・ハオ 他

一人の老女の日常を追いながら、現代中国が抱える社会問題と政治に翻弄された人生の無慈悲さを描いた作品。
夫を亡くし、離れて暮らす息子2人の世話を焼きながら、一人暮らしを続ける老女が主人公。無言電話などの悪質な嫌がらせに悩む彼女のもとに、一人の少年が現れる。悪質化する嫌がらせ、そして突然現れた少年の正体は?
前半は、嫌がらせの犯人を追うサスペンスの緊迫感が続きますが、後半明らかにされる老女の過去によって、物語は急展開。ラストまで一気に見せます。

独居老人、希薄化する家族関係、同性愛…。さまざまな現代社会の問題が当たり前のように描かれます。それは本当に特別でもなんでもなく、日常に転がっている問題。これは日本にも共通する部分もあり、前半は共感と反感を持って見ていました。
しかし、主人公が抱える過去の罪が明らかになってから、物語はより普遍的な「生きる」こと、そのものを問う展開へ。
文化大革命時代に彼女が犯した罪。それは、よりよい生活を求めて、ただそれだけの、生きる為にやったことだったけれど。その罪が、亡霊となって、年老いた彼女に襲い掛かります。
終盤、息を切らしながら坂道を駆ける老女の姿。そこからの展開。最後の最後に主人公に突き付けられた、人生の無慈悲さ。
あのラストは圧巻でした。
今年は20作品鑑賞しましたが、その中でベスト3を挙げるとすると、この作品を迷わず1本に選びます。

主演のリュイ・チョンさんの演技も素晴らしかったです。主人公の息子役で、昨年アジアフォーカスで上映された『ブラインド・マッサージ』に出演していたチン・ハオさんが出ています。二年連続で、アジアフォーカスのスクリーンで見ることができました^^

『Little Big Master』(★★★★★)
Little big master_ポスター
英題:Little Big Master
2015年/香港/中国/112分
監督:エイドリアン・クワン
キャスト:ミリアム・ヨン、ルイス・クー、リチャード・ン、フィリップ・キョン 他

主人公はエリート幼稚園で園長として働くキャリアウーマン。
子どもの心を無視した英才教育が行われるやり方に疑問を抱き、疲れた彼女は幼稚園を退職します。仕事をやめ、夫との世界旅行を夢見て、のんびり毎日を過ごす彼女でしたが、どこか心は満たされず。そんな時、貧困地区で閉園間近となった幼稚園のニュースを見て、彼女は一大決心をします。

香港で実際にあった話を基に描かれた感動作。今年の観客賞受賞作です。
ど真中直球でガンガン泣かせにきます。これでもか、これでもかと。その策にまんまとハマって、私は涙・涙・涙でした。「泣かせる」映画は苦手な人もいるかと思いますが、私はこの作品は好きです。あまりにもきれいな物語ですが、「事実」を基にしたという、その説得力は絶大なんですねえ。

今年のアジアフォーカスは事実を基にした作品が何作も見られ、琴線に触れる感動的な物語が多かったです。
上映後のQ&Aで監督やプロデューサーさん達のお話をうかがってわかったのは、まず、制作に携わった人々がその物語にとても共感したということ。それを多くの人々に伝えなければならない、その意義を信じ、熱意を持って制作に取り掛かったということ。
この作品の監督であるエイドリアン・クワンさんも、上映前の挨拶で感極まって涙を流し、上映後のQ&Aでも熱くなりすぎて泣いてしまうほど、熱意のある監督さんで。
今年は比較的若い監督さんやプロデューサーさんが多くて、皆さんの映画にかける思いがひしひしと伝わってきて、本当にいろんな感動を得た映画祭でした。

…と、話が逸れてしまいました^^;

世の中きれごとばかりではなく、嫌なことも苦しいことも目を背けたいこともたくさんありますが、でも、悪いことばかりではないのも事実。
「希望はある」ということを、大人は子どもたちに伝える義務があると強く感じました。これは、この直前に鑑賞した『ダークホース』(ニュージーランド映画。感想は後日)と共通するテーマでもありました。地域や文化など関係ない、普遍的なテーマですね。

『生きる』(★★★★)
生きる_ポスター
英題:Alive
2014年/韓国/175分
監督:パク・ジョンボム
キャスト:パク・ジョンボム、イ・スンヨン、パク・ミョンフン、シン・ヘッビッ 他

『ムサン日記 白い犬』のパク・ジョンボム監督作。
山奥の田舎町で厳しい生活を続ける一人の男性の報われない日々を3時間にわたって描き続ける、見てる側にも忍耐力を要求するしんどい作品。
精神疾患を抱える姉に振り回され、自身の人生を犠牲にし、それでも姉を捨てることのできない主人公を監督自身が演じています。
姉の存在が終始主人公を苦しめ、追いつめるのだけれど、暴言を吐きながらもなお姉を見捨てることができず、姉と彼女の娘の面倒を見続ける主人公。正直、主人公の生き方には共感はできなかったのですが、彼の生き方を否定することもできません。
主人公は不器用と言えば不器用ですし、でもそんな一言で片づけられるようなものでもなく。社会の底辺で、助けの手を差し伸べてくれる人は誰もおらず、もがき苦しみ続ける人々の生活って、きっとこうなんだろうなと(他人事みたいですみません)。

3時間という長い時間ですが、退屈することはないんですね。でも、やっぱり長すぎると思います。
Q&Aでの監督のお話によると、監督自身の経験が反映されているそうなので、削るに削れないものがあったのかな、とは思ったのですが(どのシーンも重みのあるものだし)。個人的にこれは要らないよなあと感じたシーンはいくつかありました。
★が1個少ないのは、長すぎるから。でも、見る価値のある作品です。

『その夏に抱かれて』(★★★)
その夏に抱かれて_ポスター
英題:(Sex) Appeal
2014年/台湾/107分
監督:ワン・ウェイミン
キャスト:アンバー・クォ、レオン・ダイ、ビビアン・スー 他

台湾で実際に起きた、大学教授による女子学生レイプ事件を題材にした作品。
被害にあう女子学生をアンバー・クォが演じ、大学教授を訴えた彼女を弁護する敏腕弁護士をビビアン・スーが演じます。
非常にデリケートな題材を扱っているのでどういう作品なんだろうと半信半疑で見たのですが、特定の人物を悪者にして善悪を描いたというわけではなく、煽りがなかったのは少し好感持てました。
制作も大変だったとは思うのだけど、法廷劇としては物足りないし、被害者や弁護士など物語の軸となる女性たちについての掘り下げが足りなかったのは残念。やや消化不良でした。

事件とは直接関係ないのですが、何度かデモの話が取り上げられます。舞台となる大学のある街のリゾート開発問題や、大学教授が若い頃政治でもに参加していたことなど。
ストーリーはレイプの被害者が加害者を訴えるというものですが、「立場の弱い者が声をあげる」というのがテーマの一つとしてあったのかなあとは思いました。

内容的には物足りなさを感じましたが、キャストは魅力的な方たちが揃っていました。
『台北の朝、僕は恋をする』でキュートなヒロインを演じたアンバー・クォが、大人の魅力振りまく大学教授に恋心を寄せ、彼にレイプされてもなお、彼に対する自分の感情に整理をつけられず苦悩する女子学生を、繊細に演じています。彼女、29歳なんですよね。本人の年齢が全く気にならない、20代前後の若い女性の儚さが出ていました。
大学教授を演じたのは、レオン・ダイ。この方がまたかっこいいんですよ! 若い女の子が惚れる大人の男ですよ。いやー、惚れるよ、惚れる。あれは惚れる。
そして、日本でかつて人気アイドルとして活躍したビビアン・スーが、敏腕弁護士役で登場。可愛さが売りだった彼女もすでに40歳ということで、やはり表情には人生の諸々の苦悩が見てとれるのですが、それでも変わらない愛らしさがありました。
久しぶりに見ましたが、元気そうで何よりでした。

『ミンヨン 倍音の法則』(★★★)
ミンヨン_ポスター
Harmonics Minyoung
2014年/日本/140分
監督:佐々木昭一郎
キャスト:ミンヨン、ユンヨン、武藤英明、丹部辰徳 他

アジアフォーカスの公式サイトから引用すると

TV演出家として『四季・ユートピアノ』『川の流れはバイオリンの音』などで国内外の人々を魅了した孤高の伝説的映像作家・佐々木昭一郎。約20年の沈黙を破り発表した待望の新作であり、初の劇場用映画作品である。

だそうですが、この佐々木さんについて私は全く知りませんでした。招待作品だから見たわけなんですが。。。
映画作品というより、映像作品といったほうがいいかも。見る前は抽象的な作品かと勝手に想像していたんですが、ストーリー性があって思っていたより楽しめました。監督がヒロイン役のミンヨンさんに惚れこんでることがよくわかる内容で、「ミンヨン讃歌」と呼びたいくらいです。

Q&Aでのお話によると、監督がこのミンヨンさん(一般人の方)をヒロインに選んだのは、彼女の声に惚れたから、ということでした。
私も彼女の声はきれいだと思ったのですが、残念だったのは、彼女の声の美しさが最もわかる韓国語があまり使われなかったこと。
ミンヨンさんは日韓英の3カ国語を使えるトライリンガルで、同じ内容のセリフをそれぞれの言語で語るシーンがあります。日英もスムーズに話しているんですけど、やっぱり生まれてからずっと使っている母語の響きが圧倒的に美しいんですね。その違いに驚いてしまいました。
話の舞台が日本なので仕方ないとはいえ、彼女のセリフが日本語メインで、韓国語があまり聴けなかったのはとても残念でした。しかも、日本語の次に使われているのは、韓国語ではなく、英語なんですよね。
「音」がテーマの一つでもある作品なので、ミンヨンさんの声が最も美しく聴こえる言語にこだわっても良かったんじゃないかなあと。

『アリエル王子と監視人』(★★★)
アリエル王子と監視人_ポスター
英題:Hand In the Glove
2015年/日本・タイ/70分
監督:稲葉雄介
キャスト:チャーノン・リクンスラガーン、伊澤恵美子 他

熊本を舞台に、お忍びで来日した某国の王子と日本人女性の出会いをドキュメンタリータッチで描いた、日本とタイ共同製作のロードムービー。
熊本市協力ということで観光映画かと思いきや、ドキュメンタリータッチのロードムービーで思いのほか楽しめました。説明不足な点が少し気になりましたが、自己満足に陥ることはなく。この手の映画では、大手制作のものなんて大抵ロマンスに発展するものですが、そうはならず(笑)。最後の最後まで距離感を大事にしていて、未熟さは感じるものの、好感の持てる作品でした。

ただ、どうしても気になったのがカメラ。Q&Aでも指摘があったんですけど、ずっと手持ちなんですよね。Q&Aでは、カメラの揺れは王子の心情を表現するためのものだろうけど、熊本市内を写す時はフィックス(固定)で撮るべきではなかったか、という感想が出ました。
揺れの意図は質問者の指摘通りだったようです。ただ、フィックスについて監督さんは「好みの問題」と仰っていたのですが、私は質問者に同感で。そこはメリハリをつけてほしかったです。
私が特に気になったのは、ヒロインの故郷を訪れたシーン。バイクに乗って下り坂を駆けていくんですけど、ここでもカメラが揺れるんですね。こういうシーンで大切なのって、スピード感とか爽快感だと思うんですけど、カメラが揺れすぎて、それが全然感じられなかったんです。ああいうシーン大好きなので、カメラは固定で、スピード感のあるシーンに仕上げてほしかったなあと(まあ、これが監督のいう「好み」なんでしょうけど、笑)。

監督さんはとても若くて、おそらく20代? 偏見かもしれませんが、冷めた視線…というのもちょっと違うかな、若いからこその客観性というか、対象からあえて距離を置いて物事を見つめる姿が印象的でした。
アドリブのような自然なセリフもとても良かったです。あれ、全部台本に書いてあったのかなあ。。
若い監督さんですし、これからもっといい作品を撮れるような気がしました。違う作品を見る機会があれば、ぜひ見てみたいです。

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