アジアフォーカス・福岡国際映画祭2016(2)~東南アジア編・その2

前回に続き、アジアフォーカスの感想です。

※ネタばれあり。

※  ※  ※

( )内の★は個人的満足度。5点満点です。

『セブンレターズ』(★★★★)
セブンレターズ_ポスター
英題:7 Letters
2015年/シンガポール・マレーシア/116分
監督:エリック・クー、ブー・ユンファン、ジャック・ネオ、ケルビン・トング、K.ラジャゴパル、タン・ピンピン、ロイストン・タン

シンガポールを代表する7人の映画監督による、シンガポール建国50周年を祝し制作されたオムニバス映画。
さまざまな人種や言語、文化が入り混じる都市国家シンガポール。7人の監督が紡ぐ物語も、コメディもあればドラマもあり。それぞれ時代も、舞台も、人々の年齢や人種も異なりますが、そのどれもがシンガポールの姿。7つの物語を通して、共通するものも見えてきて、「人々の思い・歴史=国の歴史」なのかな、と感じました。
味わい深い7つの物語、珠玉の短編集です。

『ポリス・エボ』(★★★★)
ポリス・エボ_ポスター
英題:Polis Evo
2015年/マレーシア/120分
監督:ガズ・アブ・バカール
キャスト:シャヘイジー・サム(カイ)、ジザン・ラザック(サニ)、フシャイリ・フサイン(イズライル)、ノラ・ダニッシュ(アニス) 他

都会のエリート捜査官と地方のお人好し警官がコンビを組み、難解事件を解決するマレーシア発バディムービー。
プロット自体に目新しさはないですが、想像していた以上に見応えのあるアクションと魅力的なキャラクターで、最初から最後まで気持ちよく楽しむことができました。

ハリウッド的というか、ありふれたプロットではあるのですが、だからこそ、中途半端だと陳腐になってしまうこともあるのではないかと。その点この作品は、脚本やキャラクターもしっかり作られていて、銃撃戦やカーチェイスなどのアクションも見応えがあり、マレーシアのローカル要素は新鮮さもあり。安心して見られる娯楽作品でした。
地方警官のサニ(作中ではお笑い担当。ポスターでは右に写ってる方)を演じたジザン・ラザックさんは、コメディアンだそうです。どおりで、コメディ部分がしっかりしていて、アクションとのバランスも良いと感じました。
本国マレーシアでは大ヒットし、続編も制作予定だそうです。監督のお話によると、次作はアクション要素を多めにするとのことですが、どんな作品になるのでしょうか。次作も、福岡で観賞できると嬉しいです。

ここからは、ベトナム映画を3本。
今年は「ベトナム大特集」ということで、ドキュメンタリー作品なども含め9本(かな?)上映されましたが、鑑賞できたのは3本でした。(どうも興味のわく作品が少なくて…)

『緑の野に黄色い花』(★★★★)
緑の野に黄色い花_ポスター
英題:Yellow Flowers on the Green Grass
2015年/ベトナム/103分
監督:ヴィクター・ヴー
キャスト:チン・ヴィン(ティウ)、チョン・カン(トゥン)、ムーン(タイン・ミー) 他

舞台は1980年代、豊かな自然に囲まれたベトナム中南部の小さな農村。思春期を迎えた少年ティウと、兄を心から尊敬する可愛い弟トゥン。そして、ティウがほのかに想いを寄せる少女ムーン。美しい緑と風に囲まれた小さな村で、3人の友情と淡い恋模様を瑞々しく描きます。

日本では『つぶらな瞳』が翻訳されている、グエン・ニャット・アインの同名原作の映画化。
のどかな村を舞台にした3人の少年少女の淡い青春物語、と思いきや、ただノスタルジーに浸る青春ものではなく、痛みと苦さの残る作品でした。特に、思春期ということもあるのか、繊細過ぎて必要以上に傷つき、また周囲も傷つけてしまう兄ティウの姿は見ていて、何とも言えない気持ちに。。ムーンへの淡い恋心、屈託のない弟への嫉妬、思春期の苦みがぎゅっと詰まっていました。
そのティウを演じた少年をはじめ、主役3人の演技はとても良かったと思います。
青々とした緑の匂いが漂ってくるような美しい風景は眼福です。

『スキャンダル』(★★★)
スキャンダル_ポスター
英題:Scandal
2012年/ベトナム/103分
監督:ヴィクター・ヴー
キャスト:ヴァン・チャン(リン)、マヤ(チャミー)、レー・フン(クーン・ゴク)、フーン(ラン・フーン) 他

華やかなショービズ界を舞台に、トップを目指す女性たちの野望や嫉妬、彼女らを利用する男たちの暗躍を描いたサイコスリラー。

なんと、上述の『緑の野に黄色の花を』と同じヴィクター・ヴー監督の作品。制作年は『スキャンダル』が先で、元々ヴー監督は娯楽作品を多く撮ってらしたようです。(『緑の野に黄色の花を』は初の文芸作品なんだとか)
この『スキャンダル』は野望と嫉妬をぎゅっと1粒に1000倍濃縮させたような作品でした。まったく正反対の作品を同時に見られたのは良かったかも。
ショービズ界の舞台裏というのは、国や地域問わず描かれるテーマかと思いますが、この作品で特に印象的だったのは「呪い」でしょうか。ベトナムでは呪術的なものへの信仰があるようで、作中でも重要なキーワードとなっていました。
その呪いにより(?)、ヒロインの精神状態がおかしくなり、終盤本当に血みどろの争いになってしまったのは、見ていてちょっと辛いものがありました。ただの殺し合いになってしまいましたからね。そこまでしなくても、と。
ヒロインを演じた女優さんも(精神的にも)大変だっただろうなあと…。見終わった後、この役を演じきった彼女に拍手を送りたくなりました。

『クエン~さらば、ベルリンの壁よ~』(★★★)
クエン_ポスター
英題:Farewell, Berlin Wall
2015年/ベトナム/108分
監督:グエン・ファン・クアン・ビン
キャスト:ヴー・ゴク・アイン(クエン)、チャン・バオ・ソン(フン)、デビッド・チャン(ズン)、ゲーリー・ダニエルズ(ハンス) 他

舞台はベルリンの壁崩壊前後のドイツ。深刻な経済危機により、多くのベトナム人労働者や学生が非合法に東から西へ向かう中、密入国ブローカーの画策で夫と引き離されてしまったベトナム人女性クエンの数奇な運命を描くベトナム映画。

欧州のアジア系移民のお話ということで社会派ドラマかと思っていたのですが、恋愛にマフィアにあれこれ詰め込んだ、娯楽要素高めの作品でした。。
ツッコミどころ満載というか、粗さも目立つ作品ではあったのですが、マフィア抗争などドンパチやりながら、アジア系移民の苦悩も描かれた作品で、興味深く見ることができました。
その土地や国を舞台にした作品も面白いですが、様々な事情から故郷を離れて暮らす人々にスポットをあてた作品も、また違った視点でその国の歴史を知ることができ、見応えありますね。
前回の記事で書いたインドネシアの『プラハからの手紙』もそうですし、昨年上映されたフィリピン映画『インビジブル』(ローレンス・ファルド監督)も、そうでした。来年もまた、そのような作品が見られるでしょうか。

映画の内容とは関係ないのですが、『クエン』のキャストは日本の俳優さんに似ている方が多くて、なんだか日本のドラマを見ているような親近感も^^;

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アジアフォーカスの感想、もうしばらく続きます。

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