前回に続き、アジアフォーカスの感想です。今年の感想はこれで最後になります。
※ネタばれあり。
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( )内の★は個人的満足度。5点満点です。
『ハラル・ラブ』(★★★★)
英題:Halal Love (and Sex)
2015年/独・レバノン/95分
監督:アサド・フラッドカー
キャスト:ダリン・ハムゼ(ルブナ)、ロドリグ・スレイマン(アブ アハマド)、ミルナ・ムカルゼル(アワテッフ)、アリ・サムーリ(サリーム)、フセイン・ムカッデム(ムフタール) 他
開放的な国際都市の一面も持ちながらイスラム教的制限も多いベイルートが舞台。平凡な人々がコーランの教えを守りながら、夫婦間の問題や恋、性的欲望に折り合いをつけようと奮闘する姿を描くラブコメディ。
今年の本映画祭の印象として、「発展途上国を舞台とした映画で批判的に描かれることも少なくない宗教や伝統的文化・慣習などですが、それらを受け入れながら幸せを追い求める人々の姿をいきいきと描く作品」が心に残ったと、最初の記事で書きました。本作がまさにその代表的な作品です。今年の観客賞も受賞しました。
ムスリムの世界は、テレビのニュースなどで伝え聞くマイナスなイメージも強く、普段馴染みのない私のような人間はどうしても、ある種のフィルターがかかってしまうのですが、宗教や人種、出身地など関係なく、万国共通のものがあるというのがよくわかる作品です。共感できる部分も、気持ちがわかるからこそ反論したい部分も、ありました。
冒頭はいきなり、小学校での性教育の話。これで、ほとんどの観客の心を掴んだんじゃないでしょうか。(結構際どい下ネタがちょいちょい出てきます)。
描かれるのは3組のカップル。
可愛い娘たちに恵まれ、生活も円満の中年夫婦。ただ、妻は夫の毎夜の要求に耐え切れず、二番目の妻を探そうとします。
2組目は、同じマンションに住む若夫婦。こちらは喧嘩が絶えず、離婚と再婚を繰り返してばかり。3度目の離婚の後、再び再婚することになるのですが…。コーランの教えでは4度目の再婚をする際は妻が一度別の男性と結婚しなければならないので、そのために妻と一時的に結婚してくれる男性を探します。
3組目は、オーストラリアへの移住を考えながら、妻子ある男性と不倫を続ける女性。こちらはカップルというよりは、一人の女性が自立する物語と言ってもいいかも。
この3組のカップルを通して、ベイルートに住む人々がどのように宗教とともに生きているのかを浮き彫りにしていきます。一夫多妻制が認められているのを逆手にとる1組目のカップルの話は、「ああ、こういう方法もあるのか!」と目からうろこでした。3組目の女性の話は、いかにも現代的だったかなあ。
多様な生き方の提示は、日本に住んでいる私にも、私自身の問題として響くものがありました。女性が魅力的に描かれているのも良かったですね。みんなとってもエネルギッシュ。元気をもらえました。
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『預言者ムハンマド』(★★★★)
英題:Muhammad, the Messenger of God
2015年/イラン/158分
監督:マジド・マジディ
キャスト:メーディ・パクデル(アブタレブ)、アリレザ・ショジャヌーリ(アブドルモツタレブ)、モーセン・タナバンデー(サムエール)、ダリユーシュ・ファルハング(アブソフィアン) 他
マジド・マジディ監督の最新作。イスラム教の祖・預言者ムハンマドの少年時代とともに、イスラム以前のアラブ世界を描く一大歴史絵巻。
音楽を『ムトゥ 踊るマハラジャ』や『スラムドッグ$ミリオネア』などで知られるインドの作曲家・A.R.ラフマーンが担当しており、ラフマーン氏の福岡アジア文化賞大賞受賞を記念しての特別上映となりました。
ムハンマド自身より、彼を取り巻く周囲の大人たちの話がメイン。イスラムのことは不勉強でこの物語も初めて知りましたが、映画としてとても面白い作品でした。
3時間弱という長さも全く気になりませんでした。ムハンマドの顔は映されることはなく(偶像崇拝は禁止されている)、時折彼視点の映像になったりという工夫もありました。ムハンマドをめぐる大人たちの闘いは人間ドラマそのもので見応えがあり、ユダヤ教との関わりも興味深くみました。
知らないからこそ楽しめた部分もあるかもしれないですが…^^;
本国では賛否両論巻き起こったようですが、日本での上映機会はあるでしょうか。。
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『くるみの木』(★★★★)
英題:Walnut Tree
2015年/カザフスタン/81分
監督:エルラン・ヌルムハンベトフ
キャスト:ルムテム・ジャヌアマノフ(ガビット)、バルヌル・アスル(アイスル) 他
舞台はカザフスタン南部の村。若いカップルの結婚と出産を物語の軸に、村の人々の日常をありのままに描くカザフスタン映画。
異文化の冠婚葬祭系の話は、それだけで興味深く、面白く見られますね。
伝統や慣習に縛られた田舎ならではの人間模様への風刺を織り交ぜながらも、そこで生きる人々への温かい眼差しは忘れずに。監督自身がカザフスタンの南部で育ち、村の雰囲気をスクリーンの中に持ち込みたいと、南部の村で撮影、出演者もほとんどが地元の人々、とこだわっての制作だったようです。
淡々としていながらも、ユーモアと風刺がピリッとスパイスのようにきいて、最後まで飽きさせません。
前述の『ハラル・ラブ』と似ているなあ、と感じながらの鑑賞でした。
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『風は記憶』(★★)
英題:Memories of the Wind
2015年/トルコ・仏・独・ジョージア/126分
監督:オズジャン・アルペル
キャスト:オヌル・サイラク(アラム)、ソフィア・カンダミロヴァ(メルイェム)、ムスタファ・ウウルル(ミハイル)、エプル・オズカン(レイラ) 他
2012年にアジアフォーカスで上映された『未来へつづく声』のオズジャン・アルペル監督の作品。
舞台は第二次世界大戦中のトルコ。共産主義者であることを理由に追われる身となった一人のアルメニア人男性が、迫害から逃れるため訪れた国境近くの村で、とある夫婦の世話になりながら、自身の過去と向き合う姿を美しい映像で綴ります。
当時のトルコやアルメニア人の状況についてはわからないことばかりで、語るのもあれなんですが。
山奥の村で家に閉じこもり、過去の辛い記憶が思い起こされるだけの日々を送る。それだけなんですが、退屈することなく最後まで見ることができました。これも、美しい映像のおかげでしょうか。
でも、その映像が美しすぎるのが気になりました。あらゆる場面で、アングルだったり、光だったり、強いこだわりを感じました。映像へのこだわりが強すぎるというか。
4年前に上映された『未来へつづく声』も鑑賞してます。その時にも感じたことなんですが、作品の醸し出す雰囲気と題材の重さが、少しズレているような気がするんですよね。見ながら、4年前の違和感を思い出しました。
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『ラジオ・ドリーム』(?)
英題:Radio Dreams
2016年/米・イラン/93分
監督:ババック・ジャリリ
キャスト:モーセン・ナムジュー(ハミード・ロヤニ)、ボシュラ・ダステュールネジャドー(マラール)、カブール・ドリームズ(カブール・ドリームズ)、ラーズ・ウルリッヒ(ラーズ・ウルリッヒ) 他
サンフランシスコにあるアフガニスタン・イラン人向けの小さなラジオ局が舞台。
利益か崇高な芸術か。番組内容や広告を巡って繰り広げられる局内での対立と、アフガニスタン初のロックバンドと往年のロックバンド「メタリカ」とのセッション企画が並行して描かれます。
しかし、予定の時刻になっても現れない大物ミュージシャン。はたして、セッションは無事行われるのでしょうか…。
つまらなかったわけではないんですけど、独特の雰囲気の映画で、途中で寝てしまいました。。
最大の見所であるメタリカの登場シーン直前で目覚めたのは運が良かったのか^^;
名前だけだと思っていたメタリカ(のラーズ・ウルリッヒさん)が出てきた時にはビックリ。お客さんの中にはメタリカのファンだという方もいらして、上映後のQ&Aでは興奮気味にお話をされていました。
そのQ&Aにいらしてくださったのは、映画にも出演している実在するアフガニスタン初のロックバンド、カブール・ドリームズ/Kabul Dreams のメンバー、セディック・アーマドさん。アフガニスタンでの音楽事情など、興味深い話をいろいろしてくださいました。
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『彷徨のゆくえ』(?)
英題:Fourth Direction
2015年/インド・仏/115分
監督:グルヴィンダル・シング
キャスト:スヴィンダル・ヴィッキー、カンワルジート・シング、ハルネーク・オゥラク、テージパール・シング 他
1980年代のインド・パンジャーフ州が舞台。ガンジー首相のシク教過激派制圧のための軍事行動、それに伴う首相暗殺で緊張に包まれる社会で生きる庶民の不安や苦悩を描いた作品。
…とのことですが、すみません、開始30分も経たないうちに寝てしまいました。。
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以上で、2016年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭の鑑賞記録は終わりです。
ギリギリ今年中に間に合いました^^;
今年もアジアフォーカスで、いろんな映画に出会えました。今からすでに来年の映画祭が楽しみです。
映画祭関係者の皆さま、今年も楽しい映画祭をありがとうございました!