2016年に観賞した映画を振り返ります。
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2016年に観賞した映画は計71本でした。
劇場で観賞した作品は66本(うち20本はアジアフォーカス・福岡国際映画祭で観賞)、ネット配信などで観賞した作品(旧作)は5本でした。鑑賞リスト(ページ下部)
2016年は「月5本観賞」を目標にしていたのですが、残念ながら達成できず。。(トータルの数字を12で割れば、月5本見たことにはなりますが!)
そんな中でも、いくつもの良い作品に出会えました。2016年封切り作品対象ですが、特に印象に残った10本をピックアップ。
1位:ヒメアノ~ル/日本
2位:この世界の片隅に/日本
3位:シング・ストリート 未来へのうた/アイルランド・イギリス・アメリカ合作
4位:怒り/日本
5位:帰ってきたヒトラー/ドイツ
6位:さざなみ/イギリス
7位:ブルックリン/アイルランド・イギリス・カナダ合作
8位:聖の青春/日本
9位:トランボ ハリウッドに最も嫌われた男/アメリカ
掘り出しモノ賞:インサイダーズ 内部者たち/韓国
一応順位はつけていますが、2位以下はほぼ順不同です。(ツイッターを通して映画の感想を記録しているcocoの2016ベストムービーに投票した順になっています)
この10本について、簡単に感想をまとめておきます。
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「感動」と一言で言っても、その中身は違います。
私の場合、個人的な感傷で深く心に突き刺さった作品がいつまでも心に残る傾向にあって、その意味で『ヒメアノ~ル』が2016年のベスト1となりました。『怒り』も同様の感動がありました。
『ヒメアノ~ル』
古谷実による同名コミックの映画化(原作は未読)。人が人を壊し、壊される悲しい物語です。人が精神的にも肉体的にも痛めつけられるシーンの連続で、そのいずれもで、傷つけられる方の傷みがじわじわとしみこんできます。最後には、全員の傷みがぶつかってくる。観賞後はそれに耐えるのに精一杯でした。
濱田岳&ムロツヨシによるうだつが上がらない男達のコメディパートから、殺人鬼・森田剛の恐怖に怯えるホラーへ。そして、真相が明かされていく終盤はヒューマンドラマに。本当の恐怖と哀しみが待ち構えています。人は皆狂気と隣り合わせで生きているんだと。
主人公を演じた森田剛さんの演技が素晴らしく、狂気の中に繊細さもあり、作られたキャラクターとは思えない自然さと、妙な親近感がありました。それは他の人物にも言えることなんですが、誰もが身近にいる誰かと重なり、架空の話として割り切って見ることができませんでした。
5月に観賞した作品ですが、2016年は最後までこの作品ほど心揺さぶられる映画には出会いませんでした。
『怒り』
原作・吉田修一&監督・李相日の再タッグ(原作は未読)。未解決の殺人事件から1年後、千葉、東京、沖縄に現れた前歴不詳の3人の男を巡って巻き起こる人間ドラマを描いた群像劇。
タイトルは「怒り」ですが、観賞後に強く印象に残ったのは「信頼」でした。未解決殺人事件の犯人の顔写真がテレビで公開され、「愛する人は犯人ではないか?」という疑いを持ってしまったことから、平穏な日常が壊れていく様を描きます。信頼を築くにもある程度の時間を要するわけですが、その時間が残されているか否かで変わる結末の対比がとても良かったです。キーとなる殺人事件(犯人の物語)以外に2つの物語が用意されているのは、そのためだったのかなと。
渡辺謙、森山未來、妻夫木聡、松山ケンイチ、宮崎あおいといった豪華俳優陣の共演となっていますが、それで画面がうるさくなることはなく、それぞれがしっかりと役割を果たし、一つの作品として仕上がっています。
その俳優陣の中でも、私は妻夫木聡さんの演技が今でも脳裏に焼き付いているくらい、好きでした。爽やかな笑顔の向こうにある悲しみと孤独が、痛いほどに伝わってくる演技は素晴らしかったです。
この作品も『ヒメアノ~ル』と同様、スクリーンの中で生きるキャラクター達は決して空想ではなく、過去か未来か、または現在の「自分の姿」であるかもしれない。そんなことを思わずにはいられない作品でした。
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『この世界の片隅に』『帰ってきたヒトラー』『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』は、人類の歴史の負の一面を描いた作品とも言えます。いずれも、多くの人の目に触れてほしいと思いました。
『この世界の片隅に』
第2次世界大戦中の広島・呉を舞台に、広島から呉へ嫁いだ一人の女性の日々を描いた本作は、内容の素晴らしさはもちろん、クラウドファウンディングで制作されたこと、主人公の声を担当したのんさんのことなどもあり、大きな話題となりました(なっています)。
主人公・すずのおおらかな性格とやわらかいタッチの絵が醸し出す雰囲気もあって、「ほのぼの」というキーワードで語られることも少なくないですが、戦時中を生きる人々の生活と心情を真摯に描いた、生々しささえ感じられる作品です。
ある出来事の中には、(直接的でも間接的でも)関わった人々の数だけ、物語があり、心があります。この作品はあくまでも主人公・すずの物語ですが、描かれなかった他のキャラクター達が見た戦争についても思いを馳せるよう、見る者を導いてくれます。
『帰ってきたヒトラー』
ヒトラーが21世紀にタイムスリップしたら・・・ドイツでベストセラーとなった小説を映画化した作品です。
1945年と現代のギャップに戸惑いながらも見事にアジャストし、現代でも民衆を魅了していくヒトラー。ヒトラーの戸惑いを描く序盤は笑えるのですが、徐々に現代の民衆の心を掴んでいくその姿に、顔が引きつっていくのが自分でもわかりました。ドキュメンタリータッチで描くので、リアリティもあり、強烈な風刺映画となっています。
ヒトラーを演じたオリバー・マスッチの演技が素晴らしく、彼の佇まい、沈黙、眼差し、唾を飛ばしながらの演説も魅力的に見えます。映画として面白いのですが、恐ろしくもあり。その空気を「体感する」作品でもあります。
『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』
1940年代のハリウッドが舞台、「赤狩り」で弾圧された脚本家ダルトン・トランボの波乱万丈の人生を描いた作品です。
共産主義者であることを理由にハリウッドから追放された後は、家族を養うために偽名を使い、低予算のB級映画からあらゆる作品の脚本を書きまくったトランボ(その中にはあの『ローマの休日』も含まれています)。ハリウッドの黒歴史ともされる題材ではありますが、トランボも彼の周囲の人々も(敵対する人物さえも)、キャストが魅力的に演じており、作品はユーモアにあふれ、観賞後は映画がもっと好きになれます。
恥ずかしながらハリウッドでそのような事件があったことさえ知らず、当時のハリウッド映画や時代背景もわからないまま見たのですが、それでも十分楽しめます。映像や音楽も良く、映画の魅力が詰まった1本です。
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時代も地域も異なる人々の人生の機微に触れることができるのが、映画の醍醐味の一つでもあります。
以下4作品は、ジャンルは違えど、いずれも味わい深い作品でした。
『シング・ストリート 未来へのうた』
不況にあえぐ80年代アイルランド・ダブリンで、音楽に恋にと青春を謳歌する少年の成長物語。
ほっぺの赤いシャイボーイが、人生の(ちょっとだけ)先輩である年上の少女や信頼する兄に導かれ、一歩ずつ大人への階段を登っていく姿を描きます。ツッコミどころも多々あるのですが、それらも気にならないほどに、魅力的な作品に仕上がっています。
不遇な生い立ちゆえに背伸びせざるを得なかった少女。不仲な両親のもとで弟を守るために戦ってきた主人公の兄。彼らが弱さを見せる場面も、物語の重要なポイントです。主人公よりちょっとだけ先に大人の世界を見てしまった彼らの苦しみもまた、青春なんです。
若者達の笑顔や涙に胸がいっぱいになります。そして、彼らの青春を彩る音楽がとても素晴らしいです!
『ブルックリン』
同じくアイルランドの少女が主人公となった青春映画。こちらは1950年代、アイルランドからNY・ブルックリンにやってきた少女の日々、揺れ動く心を描きます。実に平凡なヒロインの平凡な物語だけど、それがたまらなく良いです。
強く印象に残ったのは、節目節目でヒロインを導くのが「年上の女性たち」という点でした。最後、涙を堪えてヒロインを抱きしめた母親も含めて。そしてヒロインもまた、見知らぬ少女の道しるべとなっていくのです。
そういった人と人の繋がり、見知らぬ大陸へ移り、苦しみながらも生き抜いてきた先人達の物語にも思いを馳せたい作品です。
『聖の青春』
こちらは日本の青春映画。難病と闘いながら将棋に人生を賭け、29歳で亡くなった棋士・村山聖(さとし)の生涯を描いた、実話を基にした作品です。
村山聖は、若かりし頃の羽生善治のライバルとされた天才棋士。その村山を松山ケンイチ、羽生を東出昌大が演じ、二人の演技合戦も見所となっています。
村山の羽生への思いが強く、ある意味恋愛映画のようでもありました。(ストーカーみたいなこともやっている笑) 性格も生き方も違う二人が、将棋を通して心を通わせ、誰も見ぬ新たな世界を目指して闘う姿には胸が熱くなります。
そして、見逃してはならないのは、2人の天才だけでなく、挫折した若者・江川(演じるのは染谷将太)の姿も描いている点です。村山と同じ師匠につきながらも、結局将棋をやめることになる一人の青年。彼もまた、人生をかけて将棋をやってきました。自暴自棄になった村山が発してしまった言葉に傷つき、彼が握りしめた拳と涙もまた、この映画のハイライトの一つです。
『さざなみ』
青春映画が続きましたが、この『さざなみ』は結婚45周年を迎えようとする夫婦に訪れた危機を描いた作品。夫婦とは、結婚とは、愛とは、老いとは。夫婦の1週間の生活を淡々と描いているだけなのに、人生のすべてがそこに流れているようでした。
結婚45周年パーティーの開催が目前に迫ったある日、夫に届いた一枚の手紙。夫の過去の恋人に関するこの手紙をきっかけにおかしくなっていく夫婦の日々を、主に妻の視点で描いていきます。
誰しも墓場まで持っていくものを抱えて生きていると思うのですが、その秘密を隠しきれない夫の姿に、これが「老い」なのかと思ってしまいました。正直者と言うよりは、ただ欲望を抑えきれなかったようにしか見えなかったのです。
・・・夫婦の間の亀裂は映画の冒頭からずっとあり、それが時に狭まったり広がったりしながら、劇的なラストを迎えます。
そのラストのパーティーシーン、妻を演じたシャーロット・ランプリングの美しいドレス姿も必見です。
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最後に、イ・ビョンホン主演の『インサイダーズ』を。
『インサイダーズ 内部者たち』
財界・政治家・メディアの大物にいい様に使われて嵌められた男の復讐劇を描いた痛快サスペンスアクション。
韓国のエンタメ作品は、笑いあり・涙あり・アクションあり、と映画の楽しさがバランスよく詰まった良作が少なくなく、本作も本国で大ヒットしたということで見に行きました。
白すぎる歯が成り上がりチンピラにピッタリのイ・ビョンホンが、主人公を好演。このような汚れ役だとは思っていなかったので、スクリーンを前にびっくりしてしまいました。
出てくる人物、みんな胡散臭くて黒くて、目的の為なら手段を選ばない潔さがかえってスカッとします。声高に正義を叫ばないところも◎。
見ていて思わず「痛っ」と呟いてしまうアクションやえげつない描写もある作品ですが、クセのある主人公が悪い奴らを懲らしめる勧善懲悪ものは、見ていて痛快で、映画の基本は「楽しむこと」であることを思い出させてくれます。韓国映画のこの手の作品は、安心して見られます。
あえて「掘り出しモノ」に選んだのは、イ・ビョンホンの演技が想像していた以上に良かったからでした。これは、彼の出演作をろくに見ておらず、いまだに「韓流ドラマ」のイメージを勝手に抱いていた私が悪かっただけなんですが、同じような人がいれば(いるのか?)、見てほしい作品です。
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以上、2016年ベスト10本の感想でした。
2017年も良い映画にたくさん出会えますように。
2016年観賞映画リスト(邦題/制作国)
★は満足度(5点満点)
観賞順。
★★★★★
ヒメアノ~ル/日本
★★★★
ベテラン/韓国
クリード チャンプを継ぐ男/アメリカ
オデッセイ/アメリカ
マネー・ショート 華麗なる大逆転/アメリカ
リリーのすべて/イギリス
インサイダーズ 内部者たち/韓国
レヴェナント 蘇えりし者(IMAX2D)/アメリカ
グランドフィナーレ/イタリア・フランス・スイス・イギリス合作
ルーム/アイルランド・カナダ
スポットライト 世紀のスクープ/アメリカ
さざなみ/イギリス
64 ロクヨン 前編/日本
海よりもまだ深く/日本
帰ってきたヒトラー/ドイツ
ブルックリン/アイルランド・イギリス・カナダ合作
トランボ ハリウッドに最も嫌われた男/アメリカ
シング・ストリート/アイルランド・イギリス・アメリカ合作
ニュースの真相/オーストラリア・アメリカ合作
シン・ゴジラ/日本
怒り/日本
ボーン・アイデンティティー/アメリカ
手紙は憶えている/カナダ・ドイツ合作
永い言い訳/日本
聖の青春/日本
弁護人/韓国
この世界の片隅に/日本
(アジアフォーカス)
セブンスターズ/シンガポール・マレーシア合作
緑の野に黄色い花/ベトナム
くるみの木/カザフスタン
ポリス・エボ/マレーシア
ハラル・ラブ/レバノン・ドイツ合作
預言者ムハンマド/イラン
大芝居/韓国
ぼくは詩の王様と暮らした/フィリピン
プラハからの手紙/インドネシア・チェコ合作
再会の時~ビューティフル・デイズ2~/インドネシア
うつくしいひと/日本
★★★
フランス組曲/イギリス・フランス・ベルギー合作
人生の約束/日本
ストレイト・アウタ・コンプトン/アメリカ
ザ・ウォーク/アメリカ
ブリッジ・オブ・スパイ/アメリカ
パディントン/イギリス
キャロル/アメリカ
インファナル・アフェア 無間序曲/香港
インファナル・アフェア III/香港
追憶の森/アメリカ
クリーピー 偽りの隣人/日本
64 ロクヨン 後編/日本
マネーモンスター/アメリカ
裸足の季節/フランス・トルコ・ドイツ合作
ヒマラヤ 地上8,000メートルの絆/韓国
シークレット・アイズ/アメリカ
神様の思し召し/イタリア
オーバー・フェンス/日本
ジェイソン・ボーン/アメリカ
25年目の弦楽四重奏/アメリカ
(アジアフォーカス)
あの時に思いを/香港
クエン~さらば、ベルリンの壁よ~/ベトナム
ビューティフル・デイズ/インドネシア
なりゆきな、魂/日本
スキャンダル/ベトナム
★★
超高速!参勤交代/日本
最愛の子/中国・香港
風は記憶/トルコ・フランス・ドイツ・ジョージア合作
ジャック・リーチャー/アメリカ
君の名は。/日本
?(途中で寝てしまった作品)
(アジアフォーカス)
ラジオ・ドリーム/アメリカ・イラン合作
凱里ブルース/中国
彷徨のゆくえ/インド