『インセプション』

レオナルド・ディカプリオと渡辺謙共演、監督は『ダークナイト』のクリストファー・ノーラン。アメリカでも大ヒットしたというSFアクション大作。

気にならないはずがないじゃないですか! というわけで、見に行ってきました。

感想を一言で表すと、「とにかく興奮した」。

以下、物語の細部に触れておきたいので、若干ネタバレ。

ストーリーはWikipediaより抜粋。

主人公のドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)は、人の夢(潜在意識)に入り込むことでアイディアを“盗み取る”特殊な企業スパイ。そんな彼に、強大な権力を持つ大企業のトップのサイトー(渡辺謙)が仕事を依頼してきた。依頼内容はライバル会社の解体と、それを社長の息子ロバート(キリアン・マーフィー)にさせるようアイディアを“植えつける(インセプション)”ことだった。

物語は、コブがサイトーの夢に入り込み、盗みを働くところから始まります(厳密には違うけど)。
これらの場面はこの映画を理解するための導入部というか、ここで構造を理解できれば、その後の展開には難なくついていけます。
「夢の中の夢の中の夢」という複雑な話に思えますが、最初で理解できていれば、後半は本当にわかりやすくなっているので、冒頭は気を抜かずに見たほうがいいです。

最初に触れておきたいのは、アクション映画としての「インセプション」。
私もアクションマニアではないから技術的なことはさっぱりわからないけど、アクションと映像、音楽にずっと興奮しっぱなしでした。興奮しすぎてニヤニヤが止まらないくらい(シリアスな場面でもちょっとニヤニヤしてしまった、笑)。
映画が終わった後は、ものすごいジェットコースターに乗って降りた時のような感覚に陥って、しばらく何も考えられませんでした、「すごい!」という言葉以外。
「とにかく見てください」としか言いようがないです。

内容については、見終わって何時間も経ってからやっと考えられるようになりました。それくらい終わった後も興奮が続いていました(笑)。

いきなり結末に触れるのもなんですが、「夢なの?現実なの?」と思わせぶりな結末は、あれでよかったと思う、というか、「どうでもいいや」と私は思いました。
「インセプション」という難しい任務を成し遂げて、それぞれが目を覚ましてからの展開というのは、本当に緊張と期待と不安と喜びと、さまざまな感情が一気に押し寄せて、作中の中で一番興奮したシーンでした。
しかも主要メンバーにはあえて語らせずに進んでいく。コブの緊張が見る側にこれでもかと伝わってきて、圧巻でした。
そこで最後のあのシーンですから、なんか拍子抜けしたというか、結末を受け入れる余裕もなかったという感じです。

「夢か現実か」

どちらが“良いのか”。

興奮が落ち着いて、ふと考えたときに辿り着いたのはこの問題。

この作品は、ロバートへのインセプションというアクション要素の物語と同時に、コブの個人的な家族愛の物語でもあります。
この二つはリンクしていて、ロバートのインセプションのために作られた「夢の中で父と和解する」という夢で問題を解決するというストーリーは、そのままコブのストーリーに当てはまるように思いました。
要するに、「夢でもいいじゃん」と。

ロバートの父との和解を見て、「良かった」と思いました。金庫の中に置かれていたものを見て、ロバートの表情を見て、「和解できて良かった」と。
現実では仲違いしたまま別れた二人。夢の中で和解しなければ、ロバートは一生父親との確執を引きずったまま生きていくことになっていたと思うんです。
メンバーが作戦を成功させるのにあんなに必死だったのは、報酬とかが目的ではあるんですが、見ている私はいつの間にか「ロバートのためにも!」という思いで作戦の成功を祈っていました。
サイトーの利己的な理由から始まった作戦が、いつしか感情を揺るがすものに変わっていたんです。アクションを楽しむと同時に、親子愛を描いたラブストーリーをも見ていた。

この過程を経て、最後にコブの結末へ辿り着いたときに思ったのは、仮にコブの物語が夢で終わったとして何が悪いんだろう、ということでした。

「いい夢」を持ってきて、「夢でもいいじゃない」と思わせる。
なんというか監督の策にはまってしまったというか、自分の単純さを思い知らされるというか、コブの妻モルが陥った夢の闇に見事に引っかかったようにも思いますが、それでも「夢でもいいじゃないの」と、考えを整理した今でも思います。
私自身は、あの作戦は成功し、コブも現実で目的を達成したと思っています。
それがこの作品としては最高の結末だろうと思うし、甘いと言われても単純といわれても、そういう結末であってほしいなあ、と。

不思議なのは、監督がなぜこういう結末にしたのかということ。
私は作り手の考えは基本的に無視するタイプなんですけど、この作品では監督の意図が気になってしまいました。

理想的な結末を持ってくることは容易なのに、監督はあえて持ってこなかった。
むしろ、決着をつけることから逃げたのかもしれない(「無事成功しました」という結末に異を唱える人が出ることもまた容易に考え付くから)。

あれこれと勝手に監督の意図を考えてしまうんです。

そこで、監督さんはどのように考えているのだろうとインタビュー記事を調べたら、こちらのサイト(映画.com)でこんな風に語っていました。

「もしかしたら複雑という印象があるかもしれない。だから分析したり、夢のルールはなんだ? というところにとらわれがちになるが、とにかくリラックスして。何か乗り物に乗った気分で見ていけば、理解できると思うから」

こんなことを言いながら、あれこれ考えずにはいられないような物語に仕上げているところがなんとも憎いです。。
でも彼のいうように、「何か乗り物に乗った気分で」というのは、まさにそう。本当に何か乗り物に乗って、夢の世界を動き回っているような、そんな感覚に陥る作品でした。

まずは「楽しまなきゃ損」。考えることは後回しにしてもいい。いっそ考えなくてもいい。
極上のエンターテイメントだと思います。

渡辺謙さんの活躍も必見です。めちゃくちゃかっこいいですよー。
日本人だけれど、強力な権力を持った無国籍の雰囲気漂うサイトーを見事に演じています。日本人がこれほどまでにハリウッド映画に溶け込んでいることが、とても不思議でした。大スター・ディカプリオにも決して負けていません。
そして作戦を実行するメンバーも魅力的な人物たち。

アーサー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)
イームス(トム・ハーディ)
ユスフ(ディリープ・ラオ)

素敵なキャラ(俳優さん)たちでした。個人的にはイームスが好みかなあ(笑)。アーサーもいいけど。
俳優さん自身の国籍はともかく、それぞれ違う地域の雰囲気を持っていて、とても国際的。ロケも世界各国で行われていて、作品自体が無国籍というか、国境を感じないものになっています(コブの物語ではその国境を越えるのが重要なんだけど)。

ロバートも出てきたときはどうにも頼りない感じの息子で、印象に残りにくかったのですが、夢から目が覚めた後の何とも言えない表情はとても印象的でした。

作戦メンバーの紅一点、アリアドネを演じるのはエレン・ペイジ。『JUNO』で妊娠した女子高生を演じた女優さんです。
『JUNO』は気になりながらも未見なんですが、『インセプション』では興味と探究心の尽きない女子学生を嫌味なく演じていました。「女の子」らしさというか、性的魅力を感じさせない点がとてもよかったです。

この映画、アリアドネ以外ではコブの妻モル(マリオン・コティヤール)くらいしか女性は出てこない、色気のほとんどない作品です。
アーサーが少しアリアドネに興味を持っているような素振りを見せるものの、サラッと流して、その後二人がどうなるかを示唆することもなく。
あくまでもコブが主役であって、それ以外の余計な物語、下手な恋愛模様がなかったことで、複雑に見える夢の世界も理解しやすかったです。

サイトーを含め、他のメンバーもミステリアスで、彼らの背景もとても気になるんですよ。でも、ほとんど語られない。ある程度のストーリーは監督の頭の中で用意されていると思うんですけどね。

見所満載、語り口満載の作品です。突っ込みどころを探す前に圧倒されてしまいます。
久しぶりに興奮しまくりました。
ご覧になるなら、ぜひ映画館で! まだ間に合うと思います。

重くてイライラする公式サイトはこちらから

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