川端康成『古都』

何年振りでしょうか、川端康成の『古都』を再び読んでみたので、感想を。
生き別れた双子の姉妹の交流と恋を、京都の四季風景とともに華麗に描く、「萌え~」な話です。


※  ※  ※

川端さんの作品にしてはめずらしく、温もりに溢れた作品です。彼の文体は著者自身の冷たく鋭い視線が感じられることが多いですが、この作品は最初から最後まで優しさに包まれているようでした。
解説によると、この作品を書いているころ、川端さんは睡眠薬を多用し、意識が朦朧としながら書いていたこともあったようです。本人自身が「他の作品とは違う」と仰っていたようなので、私の感じたことも間違いではないかな。
仮名が多用され、字面から受ける印象もとても柔らかいです。舞台は京都。京都弁は漢字で書けない表現もあるんですね。文字にしても、京都弁の(はんなりと言うのでしょうか)イメージは変わらないのだな、と思いました。
この小説に登場する京都はある意味、府外の人間の京都に対するいいイメージでできているようにも感じました。

物語は京都の商家に育った千重子を中心に、彼女の家族、恋、そして生き別れた双子・苗子との出会いが描かれます。

捨て子でありながらも優しい夫妻に育てられ、素直に育った千重子。生みの親に捨てられなかったものの早くに両親を失い、孤児として山奥で暮らす苗子。
生き別れた瓜二つの双子が出会う。しかも、一方に好意を寄せていた男性がもう一方に惚れる、という……どこかのドラマのような展開(笑)。
いろいろと突っ込みたくなる場面もあるのですが、それも作品に漂う優しい空気に流されて気にならなくなります。これはまあ、私が川端さん好きだからかな(笑)。

解説にもあるように、京都を代表する祭りなど、京都の四季が詳細に描かれており、京都が主人公と言ってもおかしくないです。千重子たちの話はむしろ、京都を引き立てるためのものだったのかなあと。

個人的には、千重子の恋愛模様が特に楽しく読めました。川端さんの作品にしてはめずらしく(?)、だらしのない男性が少ないです。千重子に好意を寄せる男性二人もなかなか魅力的でした。若いしね(笑)。

何より、千重子がかわいい! 萌えます(笑)。

特に序盤、仲の良い男友達の真一と花見に行くシーン。千重子が真一との待ち合わせ場所に着くと、彼は芝生に寝転がっています。それを見て、千重子が「こんなところで寝てみっともない」と怒るんです。
すると真一は「眠ってないよ。千重子さんが来たのも知ってる」。それに対して、千重子が

「いじわる」

ムスッと表情を硬くした千重子の顔が浮かび、なんだか照れてしまいました(笑)。いつの時代ですか、「いじわる。プンプン!」って(プンプンは私の妄想、笑)。いやまあ、作品が書かれたのは昭和30年代ですけど。
これまで読んだ川端さんの作品の中で際立っていた、哀しみを背負うヒロインとは一味違う女の子に、すっかり惚れてしまいました。
「どっちの男(真一ともう一人、秀男という男がいる)とくっつくんだー!」と、一人悶々としながら読み進めてました。最終的にどうなるかは読んでのお楽しみです(上でネタバレしてしまいましたが)。
邪道と言われそうだけど、こんな楽しみ方もあるのです。

文章については、前述のとおり、他の作品と違うのですが、それでも川端節はやはり感じられ、私は大好きです。余白が多いですが、それが一文一文を引き立てているようにも感じます。
そして会話が、いいですね。
私は川端さんの描く会話のシーンが好きなんですが、『古都』は特に好きです。言葉のやりとりだけで、その向こうにある彼女たちの表情が見えるようで。

それにしても、ラストが素晴らしい。読み終わった後、千重子がついたであろう同じ白い息を見たくて、ほっと溜め息をつきました。

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