『ソーシャル・ネットワーク』

今年(米国では2010年ですが)の一本となるであろう話題の『ソーシャル・ネットワーク』を見てきました。

以下、少しネタバレ。

※  ※  ※

世界最大のSNS「Facebook」創設を巡る物語。主人公は創始者とされるマーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)。主要人物は彼の友人であるエドゥアルド・サヴェリン(アンドリュー・ガーフィールド)、彼に「Facebook」のネタを盗まれたと主張する双子のウィンクルボス兄弟(アーミー・ハマー)、そしてナップスターの創設者であるショーン・パーカー(ジャスティン・ティンバーレイク)。
早口のセリフ、目まぐるしく変わる映像、とにかくテンポの速い作品です。120分もありますが、あっという間に終わり、全く長さを感じません。正直、速すぎてついて行くのに精一杯でした……。

この作品、私が一番魅力を感じたのは、主人公マークを演じたアイゼンバーグの演技です。
動的な映像、音声の中で、ほとんど変わることのないマークの表情は、見終わった後もしばらく瞼の裏に残っていました。
アイゼンバーグ演じるマークが劇中で見せる表情といえば、目の前の出来事に無関心(といった風に見える)か、逆に夢中になっているかのどちらか、と言ってもいいように思います。さらに言えば、ほとんどが無関心のほうなのですが、ただの無関心とは言えない表情なんです。
そこには困惑や苦悩も確かに見え隠れしているんです。しかし、それらが決して最前面に現れることはない。
彼は自分の感情をうまく把握できず、コントロールもできないのだと感じました。苦痛さえもどう表現すればいいのかわからない、といった感じです。
マークは友人を裏切り、支援者も見捨てるなど、冷酷な人間のようにも見えますが、彼自身の中で葛藤があることは表情や言動から伺えます。ただ、一度に多くの人間に気を遣い、仲良くやっていくことができないだけだと。
そういった悩みを抱える人は少なくないと思います。私もその1人なので(彼ほど極端ではありませんが)、彼のことを嫌いにはなれませんでした。むしろ親近感が沸く部分もあったり……。
ラスト、裁判の協議で知り合った新人弁護士の女性に「あなたは嫌な人ではない」(うろ覚え)と言わせていますが、あれは製作者側(監督?)の意図を強く感じました。マークや彼と似たような問題を抱える人間にエールを送ったのかなと。
まあ、個人的な意見ですが(そうであってほしいという願望かも)。

最初、マークはハーバード大学の有名クラブに入部したがったり、女性にふられてショックを受けたりしています。このあたりは普遍的な男子学生の一面を覗かせますが、マークは現代社会の中で求められる社交性を持たないこともあって、クラブへの入部も叶わず、女性ともうまくいきません。
そうした社交性や地位とお金・コネで決まる古い世界(ハーバード大はその象徴)で生きにくかった彼が、それらをほぼ必要としないFacebookという新たなネットワークを創設したことに、意味があるんですね。彼だからこそ創り得たと。
『ソーシャル・ネットワーク』というタイトルが示すように、これはマークの物語であり、また社会の物語でもあるように思いました。古い慣習と新しいネットワークとの間でもがく、社会の。

それにしても、ハーバード生が本当に憎たらしく描かれています。あれはどれくらい実話なんだろ。
特にあの“フェニックス”というクラブ。クラブの地位に奢り、下級生に無理難題を突きつけて遊ぶメンバーたちは強く印象に残ります。
時折挿入されるシーンはどれも強烈でした。
マークがエドゥアルドを切ったのは、Facebookの発展にとって彼が障壁となっていたことも理由の一つでしょうが、クラブのために「一週間ニワトリの世話をする」という理不尽な要求を受け入れたエドゥアルドに愛想を尽かしたことが一番大きかったんじゃないかと思いました。
あれは、マークだったら受け入れないですよね。ああいう理不尽な慣習を壊すことが、マークの目的でもあったわけですし。
あの事件がなくても、エドゥアルドがマーク(Facebook)にとって邪魔な存在となるのは必然だっただろうとは思うのですが、彼らの関係はちょっと寂しく感じました。。(二人が仲直りすることを最後まで願っていた)

……と、あれこれ書きましたが、展開が速く、人間ドラマをじっくりと味わう余裕はありませんでした。
でも、それこそがこの作品のメッセージなんだろうと思います。決して欠点などではなく。
人間関係も、自分がその当事者であっても、目の前を瞬く間に過ぎていく。
主人公はマークで、彼の視点で描かれている部分が多かったのですが、誰も主人公でないようにも感じました。軸が見えない、というか。それを探ろうとしている間に映画は終わってしまって。
これが私たちが生きている社会の姿、なのかもしれません。

見終わった後は喉が渇いて、勢いよくポカリを飲んでしまいました。疲れましたけど、悪くない疲れでした。

『ソーシャル・ネットワーク』(英題:THE SOCIAL NETWORK) 公式サイト
2010年/アメリカ/2時間0分
監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:ベン・メズリック
脚本:アーロン・ソーキン
撮影:ジェフ・クローネンウェス
音楽:トレント・レズナー
キャスト:ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク 他

2 comments to “『ソーシャル・ネットワーク』”
  1. きちんと1本の映画の感想を書かれたことに敬意を表します。自分もこの映画を観たのですが、今もって感想文を書いていません。この映画のみならず、他の映画についても、好きな作品、それ程でもない作品、その殆どについて、書きたいのに、書かないのです。ずぼらというのか、”流されて”ばかりいるのか--。もし『ソーシャル・ネットワーク』について、自分関係のところに書くようなことがあれなTweet しておきますが--実現することは??
    どころか-期待できない???
    本日はこれにて。では。printempshunsei

  2. >printempshunseiさん
    拙文を読んでくださり、ありがとうございます。
    感想を書くのは大変ですよね!私もいつも時間がかかってしまいます。でも、感想を書く過程で新しく気付くこともあり、楽しんで書いてます。
    printempshunseiさんもぜひ書かれてみてください^^

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