2回見てきました。
「感動」よりも、「好き」って気持ち。
映画館で他のお客さんたちと感情を共有する喜びを感じました。
素敵な経験をさせてもらった作品です。
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ストーリーはこちらシネマトゥデイより。
離婚した両親がやり直し、再び家族4人で暮らす日を夢見ている航一(前田航基)。母親と祖父母と鹿児島で暮らしながら、福岡で父親と暮らす弟・龍之介(前田旺志郎)と連絡を取っては家族を元通りにする方法に頭を悩ませる航一は、九州新幹線全線開通にまつわるうわさを聞きつけ、ある無謀な計画を立て始める。
鹿児島と福岡が舞台ってことで見に行きました。
予想外で、メインの舞台は鹿児島でした。
主役の兄弟をお笑いコンビ・まえだまえだが演じていますが、主人公はお兄ちゃんの前田航基で、彼が大人になった一夏というか一秋というか、を描いています。
再び家族4人で大阪で暮らすことを望む航一は、大阪から鹿児島にやってきて半年近く経っても慣れずにいる。
あえて慣れを拒んでいるんだけど、福岡に住む弟が楽しくやっているのを知って、焦り、裏切られたような気持ちにもなって落ち込んでいます。
よりを戻すつもりのない両親を見て、弟と2人でどうにかしなきゃ、と航一は考えてるのに、弟は自分の気持ちをきちんと受け止めてくれない。
長男として、家族のことや弟のことをいっぱいいっぱい考えている航一の姿に、涙しました。
私も長女として生きてきたので、不安な気持ちとか、共感できる部分があって。
なんかね、必要以上に不安になっちゃうんです。不仲の両親のこととか、年下のきょうだいのこととか。無事にやってるのかなって。学校はうまくいってるのかなって。
急に、ふいに、不安に襲われるんです。
そういうこともあってか、航一のほうにより強く感情移入してしまいました。
まあ、そんな感じで、家族4人で暮らすことばかりを考えて、とんでもないこと(桜島が噴火して鹿児島の街が住めなくなればいいのに→そうすれば大阪に戻れる!)を願うようになった航一なんですが、さまざまな人たちとの出会いを通して、変わっていきます。
自分の(家族の)ことしか考えてなかった航一が、その小さな世界から一歩踏み出して、今までより少し大きな世界で生きていくことを決意する。
鹿児島での生活で航一は、親の都合で引越しを繰り返している友人や、親身になってくれる先生たち、新幹線開通で色めきたつ祖父たちと触れることによって、少しずつ世界を広げていきます。
それは漠然としたもので、確かな手ごたえなどなくて、大人に振り回されているだけなのかもしれないんだけど、少しずつ少しずつ、航一の中に「何か」として積もっていってるんですね。
彼が得たものが具体的に何だったのか、というのは私にはわかりません。
祖父の一連のかるかん騒動は、地方の哀しみを表した象徴的な出来事でもあったんですが、でも航一と祖父との間には絆が生まれ、航一は「大人の味」を知ることができました。それは「ほんのり」だけでなく、苦さがあるのも、航一は感じたはずです。
終盤、航一が見せた表情は、本当に素晴らしかったです。大人への道を歩みだしたけど、まだ戸惑いや不安でいっぱいの。
大人びた表情って、どこか憂いを帯びてるんですね。何かを得ることって、何かを捨てることでもあるから。
得るつもりはなかったものを得てしまった、といった感じかな、航一の場合は。それを前田航基が見事に演じていました。
いやあ、ほんとに、この映画は航基のものなんですね。弟がいての兄、だけど、でもやっぱり、「まえだまえだの映画」というよりは「前田航基の映画」と私は思うんです。2回目で、改めてそう思いました。やっぱり前田航基の映画だった(旺志郎も好きだよ!)。
そして、やはりローカルな映画ってこと。とても大きいですね、自分の故郷が舞台ってこと。
見ていて楽しかったです、知っていることがいっぱい出てくるから。
冒頭に「桜島上空の風向き」のニュースを持ってきていたのには参りました。あれで私、この映画好きになっちゃったもん。
「桜島上空の風向き」って鹿児島独特の天気予報の項目で、私は鹿児島にいる間ずっと当たり前だと思っていたんですけど、県外の人に特異性を指摘されて初めて、「ローカル」なことに気付いたんですね。
それがいきなり冒頭から流れるんですから。
それ以外にも、福岡の街の真上を飛行機が飛んでいる映像なんかも、ローカルだなあと思いました。
あのシーンは必然性があまり感じられないんですが、あれは福岡(市内)では日常の一部なんですよね。彼らの日常から削ることはできなかったんだろうなあ。
鹿児島から福岡に越してきた当初は、頭の真上をすごい音を立てて飛行機が飛んでいってビックリしたんですが、今はもうその風景にも慣れました。
こうやって、(自分にとって)異質だったものが、なくてはならないものへと変わっていくんですね。
それは航一や龍之介も同じで。
航一にとっての大阪(家族)のシンボルとして、太陽の塔が出てくるんですが、その対照として、鹿児島のシンボル・桜島が描かれています。
航一は毎日のように降る桜島の灰を嫌って、こんなところに人が住むなんて「意味わからん」と悪態をついていたんです、途中まで。でも彼は、桜島とともに生きていくことを決心します。
嬉しかったです、彼の気持ちが。
私も自分で驚くほどに、日常の中にあった桜島が心に残っています。いつでもすぐに思い出せます、私が毎日見ていた桜島の姿。
理屈じゃなく、よりどころというか、帰る場所というか、私の中で桜島は大きな存在です。
だから航一が桜島を嫌いじゃなくなってくれたことが、とても嬉しくて。私にとっては、もうそれだけで十分なくらいでした。
この作品、映画としてもいいところはいっぱいあると思います。でも、それ以上に、私はこの作品が「好き」なんです。
それは、やっぱり舞台が鹿児島で、桜島がいっぱい出てくるからなんです。
私としては、ここまで鹿児島に寄り添ってくれたことが嬉しくて、ただもうそれだけ。
地元が映画の舞台になるって、こんな気持ちなんですね。いままで鹿児島が舞台の映画なんて見たことなかったから(たぶん)。こういう作品に出会えてよかった、と思いました。
だから、「この映画は良いよー」とは言えないんです。良い作品だと思ってはいるけど、なんか言えない。
単純に「好きだー!」と、それを真っ先に言いたいんです。
航一に桜島の隣から昇る朝日を見てほしいなあ、と思ったり、桜島フェリーのうどん食べろよー!なんて思ったり。
そんな映画でした。
『奇跡』 公式サイト
2011年/日本/2時間8分
監督・脚本: 是枝裕和
キャスト:前田航基、前田旺志郎、大塚寧々、オダギリジョー、夏川結衣、阿部寛、長澤まさみ、原田芳雄、樹木希林、橋爪功 他
※6月19日(ソラリアシネマ)、7月2日(ユナイテッド・シネマキャナルシティ13)鑑賞。