『愛を読むひと』

第二次世界大戦後のドイツを舞台に、21歳の年の差を超えて愛し合った男女の出会いと別れを描く。

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ネタバレあり。

ストーリーはシネマトゥデイより。

1958年のドイツ、15歳のマイケルは21歳も年上のハンナ(ケイト・ウィンスレット)と恋に落ち、やがて、ハンナはマイケルに本の朗読を頼むようになり、愛を深めていった。ある日、彼女は突然マイケルの前から姿を消し、数年後、法学専攻の大学生になったマイケル(デヴィッド・クロス)は、無期懲役の判決を受けるハンナと法廷で再会する。

原題は「The Reader」(朗読者)。邦題は『愛を読むひと』となっているのですが、これは愛を語り合うことができなかった男女の物語です。

ヒロインのハンナは文盲なんですが、それ以上に気になったのが、不器用さ。いわゆる「空気が読めない」と言いますか、相手や周囲の思いをうまく汲み取ることができず、無意識のうちに自分で自分を追い込んでしまう人です。
彼女は「愛」を語ることができません。彼女にとって「愛」とは肉体的なもの。マイケルと彼女が結ばれる経緯はとても唐突で不自然なんですが、それは彼女がセックスでしか愛を知らない人だから。そして相手からの愛も、セックス(と朗読)でしか受け取ることができない。まともな教育を受けずに育ったこと、そしてその美しい容貌から、彼女が男性からどのような扱いを受けてきたのかは何となく想像がつきます。
そのことにマイケルが気付くのは、まだ先です。初めての女性に、マイケルはのめり込みますが、共に過ごす時間が増えていく毎にすれ違いも増えていき、二人の関係はひと夏で終わってしまいます。

その後マイケルは、周囲の同世代の若者たちと同じように、青春時代を送ります。
大学生となり、法学部で学ぶ彼はある日、戦時中にユダヤ人収容所で看守として働いていた女性たちを裁く裁判を傍聴するのですが、その被告の中にハンナがいました。
思わぬ再会に動揺するマイケルは、落ち着かない様子で裁判を見つめます。そして裁判が進むにつれ、彼の動揺はさらに激しくなります。
かつて愛した人が戦時中の大量殺人に関わっていたこと、彼女が文盲であること、自分や自分の周囲の人々と彼女が少し「違う」こと。
初めて知る事実に、マイケルは震えて涙を流すことしかできません。事実をすべて受け止めて処理する力は、その時の彼にはまだなく。彼女を助けようと行動も起こしますが、結局途中で引き返してしまいます。

マイケルにとって、この経験は後の人生に大きな影響を及ぼします。
大人になって、結婚して、子どもができて、その子どもが学生になってもまだ、「ハンナ」という存在が彼の人生に暗い影を落としています。
時が経ち、あの夏のハンナの年齢も超えたマイケルは、刑務所で暮らすハンナに朗読テープを送るようになります。彼女と過ごした日々を思い出し、あの夏に読んだ小説を無我夢中で録音し、刑務所の中の彼女へ送るわけです。
マイケルから届くテープが生き甲斐となったハンナは、マイケルと「会話」をするために、刑務所の中で読み書きを学び、拙い字でマイケルへ手紙を書き始めます。

この2つの行為、どちらも一方的なんですね。朗読テープを送るのも、手紙を送るのも。二人の思いは通じ合っているようで、そうではなく、今回もまた少しずつ距離が離れていく。
ハンナへの愛なのか、贖罪なのか。初めは熱心にテープを送っていたマイケルもいつしかそれが苦痛となっていき、ハンナからの手紙が鬱陶しくなっていきます。
結局最後まで、二人の思いは完全に通じ合うことはありませんでした。二人は自分たちの言葉で愛を語り合うことなく、ハンナが自ら命を絶つことによって別れを迎えます。

ハンナの死後、マイケルはハンナの裁判で証言台に立った、アウシュビッツの元囚人(という言い方は好きではないけれど)である女性・マーサーに会いに行きます。
ここでのマイケルとマーサーの会話が、この映画のすべてだと思いました。
ハンナとの関係に言及した時、マーサーはマイケルに言います。「私はあなたのお役には立てないわ」と。
ハンナとの思い出に何かしらの決着をつけようとするマイケルの心を見透かしてるんですね、そのためにマーサーを利用しようとしていることも。そしてさらに、こうも言います。
「彼女(ハンナ)はあなたの人生を変えたことを知っていたの?」
このセリフを聞いた時、私は言葉にならないほどのショックを受けました。何でしょう、本当にうまく言い表せないんですけど、不条理な差別のもと壮絶な人生を送ってきた女性からこのような言葉をかけられたことが、とてもショックで。

このシーン、決してセリフの多いシーンではありませんが、マイケルとマーサーの表情と言葉が、彼らが歩んできた道を物語っています。それは恐ろしくて偉大で、慄いてしまうほどでした。見終わった後、しばらくこのシーンばかり何度も見返してしまったくらいです。
マーサーは、決断を他人に委ねてばかりのマイケルに、自分の意志で生きることを伝えます。ここでやっと、マイケルは自分の人生と向き合うわけなんですが、私の人生においても、このシーンは忘れられないものになるのではないかと思いました。
それくらいに、強く心に響いたシーンでした。

映画はマイケルの視点で描かれ、彼とハンナの物語が軸になっていますが、「正義とは何か」ということも非常に重要なポイントです。
ハンナの裁判でそれが描かれます。「正義」とは実体のないもので、状況によりどのような形にでもなりうるということ。「正義」は人間に弄ばれ、人間は「正義」に振り回される。
戦後の正義が戦時の正義を裁く裁判を、マイケルのクラスメイトが「目くらまし」と言います。
戦争が終わった後もなお、自らの中に抱え込んだ罪と戦い続けているドイツ。戦後に育った若者たちが、身近な人々が背負った罪と向き合い、戸惑う姿を見て、自分を省みずにはいられませんでした。

舞台はドイツ。しかし、制作国はアメリカとドイツで、スタッフ・キャストはイギリス人が多いという、この作品。
その中で、マイケルの青年時代を演じたデビッド・クロスはドイツ人だそうです。ドイツ人の彼がわざわざ英語を喋っているわけですが、普遍的なテーマの作品だから英語でいいという判断だったようです。ただ、英語でもアクセントは統一したいということで、クロスのドイツ語訛りの英語にあわせて、他のキャストもドイツ語訛りで喋ったんだとか(私はケイト・ウィンスレットの英語をイギリス英語と思って聴いていたんですが、ドイツ語訛りだったんですね…)。
このデビッド・クロスですが、とても素晴らしかったです。ハンナとの出会い、別れ、そして再会。様々な経験を経て成長する青年期を、見事に演じています。前半映画を引っ張っていたのは、彼の瑞々しい演技でした。

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この記事を書く前にネットで他の人の感想を検索していくつか読んでみました。
いろいろなテーマを持つ作品なので、どこにポイントを置くかで見方も変わってきますね。どの解釈が正しいとか間違っているとか、なんてことはないですが、ただ一つ確実に言えるのは、知識の量が解釈を大きく左右する、ということです。「ここまで読み取るのかあああ!!!」という批評にも出会いました。
が、私にはこれが精一杯です。。

愛を読むひと
『愛を読むひと』
原題:The Reader
2009年/アメリカ・ドイツ/124分
監督:スティーブン・ダルドリー
製作:アンソニー・ミンゲラ、シドニー・ポラック
キャスト:ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ、デビッド・クロス、レナ・オリン、ブルーノ・ガンツ 他
※2月26日、Huluにて鑑賞。

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