『フィクサー』

法律事務所に所属しながら、もみ消し屋「フィクサー」として生きる男の苦悩を描いた人間ドラマ。

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以下、ネタバレあり。

ストーリーはシネマトゥデイより。

大手法律事務所のフィクサーとして活躍するマイケル(ジョージ・クルーニー)。在職15年にして共同経営者への昇進もない彼が焦りと不安を感じる中、大企業の集団訴訟にかかわっていた同僚の弁護士アーサー(トム・ウィルキンソン)が精神に異常をきたす事態が発生。マイケルはその後始末をするため、アーサーの下へ向かう。

原題は主人公の名前「Michael Clayton」。原題の通り、マイケル・クレイトンという一人の男の生きざまを描いた物語です。
フィクサー(もみ消し屋)として活躍する男が命を狙われるというサスペンスであり、世界的企業の集団訴訟に隠された闇に迫る社会派ドラマでもあり、テーマが一つに絞り切れていないために映画の完成度は高いとは言えないのが残念ではあります。しかし、「マイケル・クレイトン」という一人の男に迫った人間ドラマとして見ると、とても味わい深い作品です。

大手法律事務所で働きながら、その活躍の場は華やかな法廷ではなく、取引先の交通事故もみ消しなど企業の不利になるような案件をもみ消す裏仕事ばかりを請け負っているマイケル。
そのストレスから逃れる為か、ギャンブルにのめり込み、高給取りにも関わらず家計は火の車。バツイチで、借金の返済に追われたり、兄弟との関係はうまくいかなかったりと、プライベートではいろいろとトラブルを抱えています。
ジョージ・クルーニーはとても魅力的な俳優ではありますが、マイケル・クレイトンには魅力はあまり感じないんですね。(裏社会で暗躍するやり手のフィクサーなんてのを期待していると肩透かしを食らう)
そんなマイケルの日々に、変化が起きます。マイケルと親しくしている敏腕弁護士アーサーが、担当する農薬会社の集団訴訟で不祥事を起こすのです。
マイケルはアーサーを救うため行動に出ますが、その中で自分自身の人生も見つめ直すことになります。

説明不足な点が少なくないのですが、それをジョージ・クルーニーをはじめとした俳優陣が見事な演技でカバーしています。
農薬会社の法務部長として会社を守ろうとする女性を演じたティルダ・スウィントン、6年に及ぶ訴訟の中で仕事と正義の狭間で苦しみ、壊れていく弁護士アーサーを演じたトム・ウィルキンソン。
2人の演技はとても素晴らしく、強い印象を残します。どちらも破滅に向かって突き進む役なんですが、どこか惹かれるものがあり、それぞれの物語を別で見てみたいくらいです。
ただ、私はやはりジョージ・クルーニーを推したいです。

すでに書いたように、マイケル・クレイトン自体はあまり魅力的な人物ではないのですが、クルーニーには惹かれます(笑)。
特にラスト、事件に一応の決着をつけたマイケルがタクシーに乗り込んだ場面。
「適当に流してくれ」と運転手に50ドルを渡し、後部座席に座ったマイケルの表情がただ流されるだけなんですが、この時のクルーニーの表情がたまらなく素晴らしいんです。

「新しい人生が始まるんだ」
希望と不安が複雑に入り混じった感情の中で、これまでの人生が走馬灯のように駆け巡る。
「これでよかったのか?」
自ら下した決断に慄き、襲ってくる不安。
「これでいいんだ」
不安を抑え込み、姿の見えない希望に思いを馳せる。

半世紀近く生きてきて、さまざまな修羅場を潜り抜けてきたであろう男でさえも戸惑う、新たな人生への旅立ちの時。
心はもう、はち切れそうでいっぱいだと思うんです。でも、堪える。
揺れる車内で大きく頬を膨らまし、息を吐くマイケルの姿を見て、言いようのない感動がこみ上げてきました。
人生の機微、というやつでしょうか。押し寄せてくるんです、これまで生きてきて味わったさまざまな感情が。
この映画を見た甲斐があったと、クルーニーの演技に思いました。

そしてもう一つ、似たような感動を覚えるシーンがありました。

この作品は、まずマイケルのある夜の出来事から始まり、一度時間が4日前に戻ります。そして、4日間が描かれた後、冒頭の夜のシーンが再び描かれる、という構成になっています。
この演出は気に入っていて、最初は「何これ?」と思っていたシーンが、4日間の出来事を知った上で改めて見ると、その真実にハッと驚かされるわけです。
3頭の馬のシーンがまさにそれです。

マイケルが3頭の馬を見て車を止めた理由は、具体的には語られません。セリフはなく、ただマイケルは吸い寄せられるように馬に近寄るだけです。でも、彼の身に起きた4日間の出来事を見た後でこのシーンを見ると、彼が馬に惹かれた気持ちがわかるような気がするんです。
このシーンはラストのタクシーの流しと似ていて、人生の岐路に立ったマイケルが気持ちを整理するために必要な時間だったのだと思います。人間性を取り戻すための時間、と言ってもいいかもしれません。
馬の演技(?)も含めて、美しくて、いいシーンでした。

最後にマイケルが兄弟関係を修復しようと試みたことも、個人的には嬉しい結末でした。ご都合主義な一面もありますが、これぞ映画という感じでね。

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原題は主人公の名前、邦題は主人公の職業、というと、トム・クルーズ好きとしては真っ先に『ザ・エージェント』が思い浮かぶわけですが…。(「ザ」が付いていない分、『フィクサー』の方がいくらかマシですかね)
こういう邦題はミスリードになりかねないのであまり好きではないんですけど、「マイケル・クレイトン」や「ジェリー・マグワイア」で客が呼べるかどうかと言うと、うーん。
日本では人の名前をそのままタイトルにしたような作品はあまり見かけませんよね。邦題の付け方にもそういう状況が関係しているのでしょうか。

それにしても、ジョージ・クルーニーはかっこいいですね~。初めて見た時は「何この人、何でこんなに濃いの?」と思ったものでしたが(笑)。

フィクサー
『フィクサー』
原題:Michael Clayton
2007年/アメリカ/120分
監督:トニー・ギルロイ
製作総指揮:スティーブン・ソダーバーグ、アンソニー・ミンゲラ、ジョージ・クルーニー 他
製作:シドニー・ポラック 他
キャスト:ジョージ・クルーニー、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、シドニー・ポラック 他
※3月8日、Huluにて鑑賞

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