『チェンジリング』

エンドロールに入った瞬間、拍手をしたくなったのは本当に久しぶりでした。「素晴らしい」の一言です。
監督は、いまや名俳優より名監督との呼び名が定着化しているクリント・イーストウッド、主演はアンジェリーナ・ジョリー。
1920年代後半にアメリカで起きた実話を元に作られた映画です。
今回はネタバレなし(のつもり)で書きます。

アンジェリーナ演じるクリスティン・コリンズは、ロサンジェルス郊外で息子ウォルターと2人暮らし。電話会社で働きながら生計を立てている。
ある土曜日、学校が休みのウォルターと出かける約束をしていたクリスティンだったが、会社から急遽電話が入り出勤することに。彼女はウォルターを家に残し出かける。
仕事がなかなか終わらず、約束していた時間を大幅に過ぎ、クリスティンは慌てて家に戻る。しかし、家にウォルターの姿はなかった。

警察に届け出て5ヶ月後、ウォルターが発見されたとの知らせが入る。
その頃、ウォルター失踪事件は街で大注目の事件となっていた。警察は、駅でクリスティンとウォルターの感動の再会を演出しようと画策し、駅にはマスコミが押し寄せていた。警察やマスコミに囲まれる中、クリスティンはウォルターの到着を待った。しかし、電車から降りてきた少年はウォルターではなかった…。

題名の『チェンジリング』は「取り替え子」という意味です。

ヨーロッパの伝承で、フェアリー・エルフ・トロールなど伝承の生物の子と、人間の子供が秘密裡に取り替えられること、またその取り替えられた子のことをいう(Wikipedia

本当にこれは実話なのか?
この息子取り替え事件の裏に隠された様々な真実に、ただただ驚愕するばかりです。時に目を覆いたくなるシーンもしばしば。しかし、スクリーンから目を離すことなどは決してできません。

音楽は最小限に抑え(なんと音楽もイーストウッド!)、人々の声や足音、車のエンジン音など、当時の人々の生活の息が伝わってきます。
淡々と描かれる物語の中で、息子を失ったクリスティンの絶望と、彼を取り戻す為に闘いを挑み続けるその強さは際立っていくばかり。

次々と彼女に襲いかかる悲劇に、「いつ終わるの?」と何度も何度も思わされます。先が全く読めない展開、事件の全貌が見えてきてもまだ「この先どうなるの?」と思わせる展開の巧みさに脱帽です。
そして、あれだけ深く目を背けたくなる真実を晒しながら、観終わった後に清々しさを感じさせるのは一体何なのか?

クリスティンの闘いは終わることはありません。それでも「希望」を口にし、笑顔で街へ消えていく彼女の後ろ姿に、私は心の中で拍手を送りました。その拍手に、私は一体どんな意味を込めたのだろう、と観終わった後問い続けました。

大きな権力の前に屈することなく闘いを挑んだ彼女の勇気に?
その勇気と強さの源でもある彼女の息子に対する愛に?
それとも、この素晴らしすぎる作品そのものに対して?

答えは見つかりません。しかし、何とも言えぬこの感動に、答えは要らないのかもしれません。
最初に「素晴らしい」の一言と書きましたが、それしか言いようがないのです。

今調べたところ、どうもこの作品は2時間半弱あるようです。
映画ではやや長いとも言える時間を、全く苦痛に感じさせることもなく、また(もう少し描いて欲しかったという意味で)短く感じさせることもなく、完全に満足させて終わらせていました。それも凄い。

主演のアンジェリーナ・ジョリーと牧師役のジョン・マルコビッチ(最後まで気付かなかった…)くらいしか有名な俳優さんは出てはいません。そのせいもあってか(?)、俳優さんのイメージに囚われることなく観ることができます。アンジーも大スターオーラを完全に消し去り、ちょっと美人で仕事のできる普通のお母さんで、本当に目の前に1920年代のアメリカが転がっているような感じでした。
あの綺麗なアンジーが、疲労で痩せこけ、涙で化粧をぐちゃぐちゃにした醜い(失礼)顔をスクリーンにアップで映しちゃっていいの?と、馬鹿げた心配をしてしまったほど役になりきっていました。
真っ赤な口紅と、(涙で目の周りをパンダにしていることが多かったですが)濃いアイシャドウが印象的でした。
泣くのを堪える時、そっと指先を口元に置くそのしぐさが、彼女の魅力を物語っているようにも感じられました。

もちろん、主人公クリスティンだけでなく、周囲の人物も魅力的に描かれています。彼女に襲いかかる理不尽な出来気とにともに闘い挑む人々も、そして彼女達と闘うことになる人々も。

サスペンスとしても傑作。社会派ドラマとしても秀逸。母の愛とその強さに涙し、驚愕の事実におののき、思わず目を指先で覆い(もちろんその隙間からスクリーンはしっかり観る)、時に涙を拭い、そしてクリスティンと同じように口元に手を持っていってしまう。
冷静の中に漂っているような作品を、湧き続ける様々な感情に押し流されそうになりながら観続けた、そんな2時間半でした。

すでにDVDが出ていますが、劇場で観ました。再映(850円)をメルマガ会員割引で500円で観たのですが、500円なんて申し訳ない!と思いました。公開当時に1800円で観たかった、と思わせるほどの作品でした。
私はどんなに良い映画でも1000円より高い金額は出せない、と思っていたので、正直こう感じてしまったことに自分でも驚きました。それくらいの傑作でした。
どうしたらこんな作品を撮ることが出来るのか、映画制作をしているわけでもないのにイーストウッドの才能に嫉妬してしまう作品です。

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