『エターナル・サンシャイン』

「記憶除去手術」を受けた男女のお話。「記憶」と「恋愛」というテーマを、奇想天外なストーリーと映像で魅せてくれます。伏線が回収されていく後半は圧巻でした。
監督はミシェル・ゴンドリーなる人物(すみません、全く知りませんでした)。フランスの映像作家だそうです(ビョークのPV手掛けているそうで、何となく納得)。
脚本のチャーリー・カウフマンとピエール・ビスマスと共にこの作品で2004年度のアカデミー賞脚本賞を受賞したとのことですが、受賞も納得の作品でした。

主人公ジョエルを演じるのはジム・キャリー。
コメディからシリアスまで何でもこなしてしまうジムですが、この作品では驚くくらい地味で何の取り柄もない、情けない、弱々しい男を演じています。
オーラがなさすぎて「え、え、これジム?」という感じです。彼お得意の顔ギャグも影を潜め、本当に地味な男を熱演しています。本当に地味です。びっくりするくらい地味です。
そんなジム演じるジョエルの恋人役・クレメンタインを演じるのがケイト・ウィンスレット。
英国美人の代表のような(と勝手に思ってます)演技派女優さんも、この作品では髪を青に染めるなど、奇行満載のかなりぶっとんだ女の子を演じています。目がテンになります。

あらすじは、

ジョエルの恋人・クレメンタインがジョエルを忘れるために自分の記憶から彼に関する記憶だけを除去する。それを知り、怒ったジョエルもまた己の記憶からクレメンタインを消そうとするが……

というもの。これがあちこちで作品の説明として書かれている内容です。
しかし、そのジョエルが記憶除去をするところにいくまでが結構長い(時間を見ていないので実際の時間はわかりませんが、感覚としてやや冗長気味に感じられました)。
しかも、ジョエルもクレメンタインも一風変わったキャラで、冒頭二人が海岸で出会い、電車の中で会話をするシーンから突拍子のない展開で、

「待てよ、私はとんでもない映画を観てしまっているのではないか」

と、ささやかな後悔が生じます。
しかし、二人(特にクレメンタイン)の奇行と、どこに向かって行くのか掴めないストーリー展開に、目は画面に釘付けとなっていきます。
少しずつ明らかになっていく真相、しかし最後までわからない二人の恋愛の行方。さらに、この二人の恋愛の裏でもうひとつの恋愛模様が繰り広げられていた、という真実。
最後の最後まで展開がわからない、と言ってもいいくらいです。

「記憶除去手術」は決して高度な技術ではなく(というか、とても高度の最先端技術なんてものには見えない)、「そんな適当でいいのかよ!」とツッコミどころ満載です。
どちらかというとアナログ的な感じさえして。記憶を消すために「消したい人に関する物(もらったものや思い出の品、相手のことを書いた日記まで)をすべてかき集めなければならない」という条件など、ちょっと切ない。
これがいとも簡単に行われていて、クレメンタインもジュエルも一時的な感情に流されて、安易にそれを行ってしまうんです。

記憶の一部だけを消すことが簡単にできたら、「この辛さから逃れるためなら記憶を消してもいい」と、あなたは思いますか?

そんなことを問われているようでした。
物語は、過去と現在が激しく行き来します。特にジュエルの記憶除去の場面に至っては、彼の古い過去(子供の頃とか)と現在の彼がごっちゃになって、一体何をしているのかわからなくなってしまいますが、その混沌さが途中から癖になる。
きっと私達の脳の中、記憶の中というのも、何年も前の記憶からつい昨日……いや1時間前の記憶まで、実はきちんと整理されることなくごちゃ混ぜになっているのではないかと思います。
今日の仕事の失敗に悔やんでいたら、ふと数年前の失恋のことまで思い出して泣いていた、なんてことはあるのではないでしょうか(私だけだったらどうしよう、汗)。
そんな状態を見事に可視化してくれていたように思います。

なにせハチャメチャな二人なので、正統派の恋愛映画を期待して観たらがっかりするかもしれません。主人公の二人のような人物と接する機会は、現実世界ではなかなかないようにも思います(少なくとも私は)。
しかし、王道の恋愛映画からは外れていて、スタイリッシュなんて言葉からは程遠く、ダサくて惨めで情けない人々(二人だけではないので)の恋愛模様も、そんなに悪くありません。むしろ、これこそが現実に近いのかも、と思わせられて。「みんながんばれ」と応援さえしたくなってしまう。

「記憶除去」を通して、恋愛の中で誰もが一度は陥る負の面と、それでもなお失われることのない輝き(エターナル・サンシャイン?)を描いた作品、と言えるかな。
原題は『Eternal sunshine of the spotless mind』。直訳すると「汚れなき心の永遠の輝き」といったところ。
これは劇中でも引用されている、アレキサンダー・ポープというイギリスの詩人が書いた『エロイーザからアベラールへ』という作品の中に出てくる詩だそうです。

How happy is the blameless vestal’s lot!
The world forgetting, by the world forgot.
Eternal sunshine of the spotless mind!
Each pray’r accepted, and each wish resign’d;

幸せは無垢な精神に宿る
忘却は許すこと
太陽の光に導かれ
陰りなき祈りは運命を動かす(映画字幕より)

(検索で引っかかったこちらのブログさんを参考にしました)。
かなり意訳のように感じますけど、詩はもともとどのようにでも解釈できるようなものなので、これでもいいのか。。
観ている時はこの詩を深く注目していなかったのですが(いつも肝心なところには意識がいかない私)、この詩を読めば、タイトルの“エターナル・サンシャイン”が何であるか、自ずと見えてくるような気がします(それは「観てのお楽しみ」ということで、今回はネタバレはほぼナシです)。

主人公の二人だけでなく、脇役のイライジャ・ウッド(全然気付かなかった!)やキルスティン・ダンストなどもとても素晴らしい演技をしています。特にキルスティン(もともと好きな女優さんなのでやや贔屓目ですが)。
何度も書いているように動きが激しいので、一見乱暴にも見える描き方なんですが、俳優さんの演技を観るととても繊細なことに気付かされます。彼らの演技を観るだけでも十分に価値のある作品です。

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