アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014(2)~東アジア・東南アジア編

9月12日から21日にまで開催された『アジアフォーカス・福岡国際映画祭2014』の感想。
前回の台湾編に続き、今回は東アジア・東南アジアの作品です。

※ネタバレあり。

※  ※  ※

( )内の★は個人的満足度。5点満点です。観客賞に投票した作品は、投票した点数を書いています。

『ブラインド・マッサージ』 (★★★★★)
ブラインド・マッサージ
英題:Blind Massage
制作年/制作国:2014年/中国・フランス
上映時間:114分
監督:ロウ・イエ
出演:チン・ハオ、クオ・シャントン、チャン・レイ、メイ・ティン、ホアン・シュエン、ホアン・ルー 他

盲人マッサージ店を舞台にした圧巻の人間ドラマ。
繁盛するマッサージ院に、院長の知り合いだというあるカップルが新入りとしてやってきたことで、うまくいっていたはずのマッサージ院の日常が少しずつ狂っていく…。

一言で障がいと言っても、その程度はさまざま。視力に関する障がいも同じで、生まれながら盲目の人もいれば、ある日突然視力を失う人も、少しずつ少しずつ光を失っていく人もいる。
障がいも、心も、生き方も、みな違う。違うからこそ惹かれあい、すれ違う。
愛情も憎しみも信頼も疑心も、人間の感情のすべてが凝縮したドラマでした。先の読めない展開はスリルもあり、最後までいい緊張感を持って楽しめました。最後は彼らとの別れにさみしさを覚えるくらい、映画の世界にどっぷり。鑑賞後、これほどの満足感を得たのは久しぶりでした。お見事としか言いようがありません。
後日ご紹介しますが『予兆の森』と並んで、今年のアジアフォーカスの私的ベスト1です。

台湾映画『ロマンス狂想曲』でヒロインを演じたホアン・ルーが、『ロマンス狂想曲』とは全く異なる役で出演しています。

『慶州』 (★★★★)
慶州 Gyeongju_
英題:Gyeongju
制作年/制作国:2014年/韓国
上映時間:145分
監督:チャン・リュル
出演:パク・ヘイル、シン・ミナ、ユン・ジンソ、キム・テソン 他

思い出探しに慶州を訪れた男の旅を描いたチャン・リュル監督の長編最新作。
チャン・リュル監督というと、私が初めて参加したアジアフォーカスで、私にアジアフォーカスの魅力を教えてくれた『豆満江』の監督さんです。
チャン・リュル監督の作品はそれ以来になります。

朝鮮族の悲しみを静かに描いた『豆満江』とは違い、今作はユーモア溢れる作品でした。(韓流ファンの日本人女性が出てきたりする、笑)
しかし、ユーモアの中にも、厳しく人生を見つめる監督の視線を感じました。
古墳などの歴史的文化財が数多く残る、過去と現在が交わる街「慶州」を舞台に描かれた物語。「生と死は常に同じ場所にある」という意識が、その根底には流れていたように思います。
人生の虚しさと心地良さが同居した、味わいのある作品でした。

時間は145分と長いんですが、全く気になりません。内容もさることながら、カメラワークが素晴らしい! 序盤から「これ(カメラワーク)だけでも楽しめるな」と思ったくらいです。趣味でカメラをやっていることもあって、構図など興味深く見ました。
また、主演のパク・ヘイルは以前主演作を見てから気になっている俳優さんの一人なんですが、彼の新作を見ることができたのも良かったです。

『タイムライン』 (★★★★)
TIMELINE
英題:Timeline
制作年/制作国:2014年/タイ
上映時間:135分
監督:ノンスィー・ニミブット
出演:ジラユ”ジェームス”・タンスィークック、ピヤティダー・ウォラムシック、ジャリンポーン・ジュンキアット、ノパチャイ・チャイヤナーム 他

田舎出身の若者が恋に人生に悩みながら成長する過程を、「SNS」と「手紙」という一見相反するコミュニケーションツールに焦点をあてて描いたタイ映画。
正直あまり期待してなかったのですが、想像以上にいい映画でした。

リアルタイムに思いをやりとりする「SNS」と、時を超えて思いを伝える「手紙」。
手段はどうであれ、「自分の思いを伝えること」「相手の思いをくみ取ること」が大切だということに気付かされます。
特に未亡人である主人公の母を慕う男性の姿がとてもよかったです。「大人の恋」とでも言いましょうか。
「手紙」を通して亡き夫へ思いを綴る母、その彼女をそっと陰で支える男性。
主人公たちの若い、良くも悪くもストレートで舞い上がった恋と比べると、静かでありながら芯の通った大人たちの姿にはハッとさせられました。

しかし、この映画の最大の魅力は、何と言ってもヒロインでしょう。最高にキュート!!
実らぬ片想いに苦しみながらも、諦めず、思いを貫く姿に、彼女の幸せを願わずにはいられませんでした。
演じていたジャリンポーン・ジュンキワットはタイの若手実力派女優だそうですが、表情豊かで素晴らしい演技でした。

また、この作品は佐賀でロケを行っています。どんな風に出てくるのか鑑賞前から楽しみにしていたんですが、かなり重要なポイントで出てきたのでびっくりしました。きれいに撮っていますね。唐津バーガーも出てきます。
九州の地が舞台となったアジア映画の上映。これこそアジアフォーカスならでは!と言えるかもしれません。今後もこういった作品が見られるといいなあと思います。

『ジャングル・スクール』 (★★★★)
ジャングル・スクール
英題:The Jungle School
制作年/制作国:2013年/インドネシア
上映時間:90分
監督:リリ・リザ
出演:プリシア・ナスティオン、ニュンサン・ブンゴ 他

スマトラ島の森で暮らす子どもたちに教育活動を行う女性を主人公に、伝統と文明、そして教育とは何かを問うリリ・リザ監督の最新作。
いくつもの難しいテーマをわかりやすくコンパクトにまとめ、テンポよく描いています。とにかく「うまいなあ」という印象。観客賞受賞も納得です。

主人公は実在する人物をモデルとしており、監督はモデルとなった女性に入念に取材を行い、原住民たちとも交流を深めていったようです。
文字を読めない原住民族に文字を教えていく中で、主人公は自分が彼らに教えているのではなく、彼らから学んでいるのだ、ということに気付きます。

人は何のために学ぶのか。
文字が読めないために、外部から来た人間たちに好きなように森を荒らされている…。
その事実に心を痛める少年が、母親に「鉛筆が災いをもたらす」と反対されながらも、「自分がこの部族を守っていくんだ」と固い決意を持って学び続ける姿に、教育の本質を見たような気がしました。

伝統と文明は相反するものとして描かれることもあり、文明を持つ教育者か、伝統を守る原住民族か、どちらかに肩入れして説教臭くなってしまいそうなテーマなんですが、監督はあくまでも中立に、最初から最後まで人々に寄り添って描いています。
リリ・リザ監督の優しいまなざし。
彼の作品の最大の魅力はそこにあるかもしれません。
少年たちの成長をテンポよく描いたエンタメ系の『夢追いかけて』も、東ティモールの哀しみをドキュメンタリータッチで描いた『ティモール島アタンブア39℃』も、作品のタイプにかかわらず、監督の姿勢は一貫しているように思います。
それがわかっているから、安心して見ることができるんですね。「次回作も見たい!」と思える。
というわけで、次回作もぜひ福岡での上映を期待しています!!

主人公を演じたプリシア・ナスティオンは、昨年のアジアフォーカスで上映された『聖なる踊子』でも主演していました。
『聖なる踊子』は昨年の私的ベスト1の作品。映画にも彼女の演技にも感動し、ずっと心に残っていました。まさか今年も彼女をスクリーンで見ることができるなんて思っていなかったので、本当に嬉しかったです。『聖なる踊子』に続き、彼女の熱演も見所です。

『サピ』 (?)
サピ
英題:Possession
制作年/制作国:2013年/フィリピン
上映時間:102分
監督:ブリヤンテ・メンドーサ
出演:ルビー・ルイス、バロン・ゲイスラー、メリル・ソリアーノ、デニス・トリロ 他

アジアフォーカスでは常連(?)のメンドーサ監督の最新作。
フィリピンのテレビ局を舞台に、視聴率を巡って天災と超常現象の取材を行う中で、翻弄されていく人々の姿を描いたドキュメンタリータッチの社会派ホラー。
とにかくカメラのブレがすごくて、途中で気分が悪くなってしまい、止むを得ず目をつぶってしまいました(眠ってはいないので、ずっと音だけは聞いてた)。ですので、評価はできず。内容自体は面白く、最後まで見たかったんですけどね。残念。

最後まで見られなかったものの、上映後のQ&Aには参加しました。フィリピンでの超常現象の扱いなど、ゲストから興味深いお話が聞けましたが、一番印象に残ったのはフィリピン人の奥様を持つという男性の感想です。
フィリピンというといつも貧困など暗い一面ばかりが取り上げられるので、今作は(先進国と変わらない)文明的な一面を描いていて嬉しかったと。
そういう思いも、あるんですね~。
Q&Aは映画製作の裏話を聞けるのが一番の楽しみですが、こうしていろんな立場の方の感想や意見に出会えることも大きな魅力ですね。

※  ※  ※

というわけで、今回は東アジア・東南アジア作品の感想でした。
ラインナップを見てみると、充実していますね。
『ブラインド・マッサージ』と『ジャングル・スクール』は初回上映の時間が重なっていましたが、「そりゃないよ~」と思いました。どちらの作品も楽しみにしていた方、多かっただろうに…。
今年のアジアフォーカスは、満席で入場できない上映がいくつもあったり、スケジュールに課題を残しましたね。。

次回の記事で、鑑賞した全作品の感想を書き終える予定です。

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