『海街diary』

国際的にも高い評価を受ける是枝裕和監督による、人気コミックの実写映画化。
綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずという個性溢れる4人の美女のキャスティングが話題になりましたが、見事に4人の魅力が引き出され、とても見応えのある作品に仕上がっていました。

以下、ネタバレあり。

※  ※  ※

ストーリは映画.comより。

湘南を舞台に、異母妹を迎えて4人となった姉妹の共同生活を通し、家族の絆を描く。
鎌倉に暮らす長女・幸、次女・佳乃、三女・千佳の香田家3姉妹のもとに、15年前に家を出ていった父の訃報が届く。葬儀に出席するため山形へ赴いた3人は、そこで異母妹となる14歳の少女すずと対面。父が亡くなり身寄りのいなくなってしまったすずだが、葬儀の場でも毅然と立ち振る舞い、そんな彼女の姿を見た幸は、すずに鎌倉で一緒に暮らそうと提案する。その申し出を受けたすずは、香田家の四女として、鎌倉で新たな生活を始める。

原作はマンガ大賞2013を受賞した吉田秋生の人気コミック、だそうですが、未読です。未読でも十分楽しめます。

四姉妹の日常生活を淡々と描いたといえばそれまでですが、その日常の中にふっと顔を出す、悲しみや憎しみ、苛立ち。笑顔の裏に隠れた腹黒い部分。そして、四姉妹と彼女たちを取り巻く人々の歩んできた人生を(直接語らずに)見せる。
作品全体のトーンはあくまでも爽やかに保ちながら、きっちりと人生の「暗」を描いているのは、さすがだなあと思いました。

女癖の悪い父親、父親とうまくいかずに娘たちをおいて家を出ていった母親。
仕事に対しても恋に対しても考えの違う姉妹ですが、一番大きいのは、両親に対する思いでしょうか。この対比が面白いです。
特に目を引いたのが、三女の千佳。
彼女は何にも縛られず自由気ままに生きているように見えて、実は一番気を遣って生きている。
父親にも母親にも厳しい長女・幸、両親に対して多くは語らず距離を置く次女・佳乃に対し、千佳は父親との思い出が少ない、と寂しい顔をするんですね。
三姉妹の誰も知らない父親の顔を知る四女・すずがやってきたことで、彼女は姉二人には聞けなかった父親の話を、すずにこっそり聞くわけです。このシーン、とても良かったです。
思い出のない父親と自分との間に「釣り」という共通点を見つけた時の、嬉しそうな表情。
これまで誰にも言えずに抑えつけてきた感情が静かに、でもはっきりと表れた瞬間で、彼女がなぜずっと「妹が欲しい」と言い続けていたのか、わかったような気がしました。
我の強い二人の姉の間で、自分を抑えてきたであろう三女の気持ちを思うと、それだけで涙がこぼれてきました。

仕事や恋といった、人生のありふれた、でも大切な問題が当然のように四姉妹にも訪れ、彼女たちがそれらを乗り越えていく姿が鎌倉の四季と共に描かれていくわけですが、その中で、四姉妹を取り巻く人々の思いも、スクリーンにはあふれます。
自身は愛する人の子どもを授かることができなかったからか、すずの両親が羨ましいと言った二ノ宮さん(風吹ジュン)。
両親が希望した女の子じゃなかったために三兄弟の中で写真が少ないと嘆く、すずの同級生・風太(前田旺志郎)。
ほんのちょっとしたセリフから、彼らのそれまでの人生や苦悩、強い思いが一気に溢れ出てきて。交錯する様々な人生に、胸がいっぱいになりました。

…まあ、四姉妹と似たような理由で両親の離婚を経験してる身なので、こういったストーリーで心が揺さぶられないわけがなく。半分はそれが原因の「動揺」でもありました。
大竹しのぶ演じる母親の立ち振る舞いを見ただけで、胸がざわつき、涙を抑えきれなかったですからね。。(大竹しのぶはさすがとしか言いようがない)
感動とか、そういうのではなくてね。もうこれは、どうしようもないんですね。
ある人物が「夫婦の縁は、親子の縁は…」なんて言うのですが、そんなこと言われたら、返す言葉もありません。ほんとうに。

どの範囲まで共感できるかで、この作品に対する印象は大きく変わるかもしれません。
パッと見ライトなだけに、暗部が見えにくいですけど、姉妹の両親たちは言わずもがな、幸とその不倫相手や、二ノ宮さんと福田さんとか、男女の複雑な関係も大きなテーマだったりしますし。
ただ、男女関係や姉妹の「普通でない」家庭環境といった問題をどこまで重要視するかは、観客次第。ここをスルーしてしまえば、そりゃあ爽やかな映画になります。

…と、グダグダ書きましたけど、私は必要以上に不幸を描くことはそもそも嫌いなので、人々の抑圧された感情を拾い上げながら、それによって彼らを苦しめるのではなく、希望を与えたこの作品は、本当に素晴らしいと思うし、好きです。
だからこそ、安易に「爽やか」などとは言いたくないんですよね。様々な負の感情に寄り添った上での、希望ですから。

話題となった、四姉妹を演じた女優陣ですが、皆さん、本当に良かったです。
特筆すべきは長澤まさみ。恋に恋する自由奔放な女性の性的な魅力。姉に対する信頼と彼女を支えなければいけないという次女としての責任感。大胆に、でもしっかりと演じきっていて、とても好感のもてる演技でした。
仕事のやりがいに目覚めていく過程も、すごくよかったですね。
彼女の演技(と美脚)は必見です。

『海街diary』ポスター
『海街diary』
2015年/日本/126分
監督・脚本:是枝裕和
原作:吉田秋生
キャスト:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、大竹しのぶ、堤真一、加瀬亮、風吹ジュン、リリー・フランキー、前田旺志郎 他
(7月3日、TOHOシネマズ天神にて鑑賞)

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