満月。
ベランダに出てみたら、正面に輝く月はあまりにもきれいで、思わず手を伸ばした。
そのまま手を伸ばしていたら体が浮いて、慌てて部屋に戻り、カーテンを閉めた。
月の引力か、魔力か。
満月は人を惑わす。
生か死か。日々揺れ動く私にとって、今夜の満月は美しすぎた。
※
深呼吸を繰り返し、もう一度、今度はカメラを持ってベランダに出る。
数度シャッターを押して、諦める。
自分の目に映る美しさをそのままに、写真におさめることは私にはできない。
欄干から離れ、月を仰ぎ見る。
刻々と空高く昇っていく月の下で、数多の灯りが輝く。
このベランダから見える窓はどれだけあるだろう。数百は軽く超えるだろう。
窓の数だけ生活があり、人生がある。
誰かの喜びや悲しみが、ベランダに立つ私の前に横たわっている。