あなたの中で死にたい

過ぎてしまった十年におつかれさま。
もう戻らない日々にさようなら。
まるで初めからなかったかのように、記憶はすっぽり抜け落ちて。時折脳裏に浮かぶ「思い出」は、ほんとうに起きたことだったのだろうか。私の「妄想」ではないのだろうか。
私にはもう何が事実だかわからない。

この十年の記録は、身体に刻まれている。
裸で鏡の前に立つ機会が増えた。全身に広がるシミ。見るたびに増えている気がする。
胸の下の黒子はいつのまにそんなに大きくなったの。
まるで罰のように、日々醜くなっていく身体。罰なのかも。

二十数年前、人生で初めて一人暮らしを始めたときに買ったスタンドミラー。
あなたは知っている、私のこの十年を。
見てきたことをそのままに、その鏡に映してくれないかしら、映画のように。
見たくないものしか映らない?

あなたはきっと私のシミの数も知っている。
私の何もかもを知っている。
最期まで見届けてほしい。私が死ぬそのときも、私のことを見ていてほしい。
あなたの中で、私は死にたい。

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